研究課題/領域番号 |
26257504
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
金子 明 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (60169563)
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研究分担者 |
五十棲 理恵 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (30550355)
脇村 孝平 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (30230931)
皆川 昇 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (00363432)
平山 謙二 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (60189868)
金子 修 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (50325370)
平塚 真弘 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (50282140)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マラリア / ケニア / 集団投薬 / プリマキン |
研究実績の概要 |
研究対象とするビクトリア湖内島嶼、および周辺地域において、我々は2012年以来継続的なcross sectional malariometric surveyを実施してきた。これらの調査結果に基づき、2016年1~3月には対象域内に位置するNgodhe島において、全住民を対象とした集団投薬(MDA)による介入試験を開始した。平成28年度はこの介入試験の評価を目的とした追跡調査を実施した。 追跡調査は、5月(介入実施約120日後)、8月(約210日後)、平成29年1月(1年後)の計3回行った。各調査は、臨床検査技師、看護師、コミュニティーボランティアからなるチームによる戸別訪問によって実施され、住人からのインフォームドコンセントを得たのちに、体温測定、採血(マラリア迅速診断、顕微鏡診断用ガラススライド作製、PCR診断用濾紙採血、Hb値測定)、蚊帳の使用状況についてのアンケート調査を行った。マラリア迅速診断によって陽性と判定された住民にはその場で抗マラリア薬を処方した。作成したガラススライドは長崎大学拠点にて顕微鏡技師によって検討し、濾紙を用いたPCR診断は大阪市大において実施した。 2016年1月初めに3%程度であった顕微鏡感染率は、2ラウンドのMDAにより0%となった。PCRによる感染率は10%から2%まで低下した。5月の顕微鏡感染率は1%程度であったが、PCRではMDAの実施前と同程度である9.5%まで再上昇がみられた。8月のPCR感染率は8%と横ばいであったが、顕微鏡感染率は2.5%であった。 2017年1月には、Ngodhe島での追跡調査に加えて、周辺地域の医療保健施設におけるcase reportの集計調査を行った。今回の調査では、初めてHDSSにマラリア感染率データを連結させることに成功した。これらのデータは今後、介入研究を拡充していく際のベースデータとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一連の追跡調査結果と数理モデルを用いた解析から、2ラウンドのMDAによってマラリア感染率を撲滅可能な水準まで低下させられるということが示された。しかし一方でその効果は短期的であり、2ヶ月後には伝播再興が確認された。その原因として、(1)不十分な媒介化対策、(2)他地域からのヒト移動に伴ったマラリア感染流入が考えられる。Ngodhe島を含めたHoma Bay郡では2012年、2015年に大規模な薬剤塗布蚊帳の配布が行われた。この結果Ngodhe島においても蚊帳の使用率上昇が確認されたが、2016年時点での使用率は70%にとどまっている。今後、配布された蚊帳の使用率向上、新たな天井式蚊帳の導入、媒介蚊幼虫対策などの展開により島嶼内での伝播再興の可能性を抑えていく。また、MDA実施期間を含めて、漁師をはじめとした多数の来訪者がマラリア原虫を持ち込んでいることが我々の先行研究から明らかになっている。来訪者によって持ち込まれる感染の多くは、不顕性かつ顕微鏡検出限界以下の感染であると考えられ、迅速診断法などのスクリーニングによらないfocal MDAなどの手法を検討する必要がある。さらに現在、コミュニティー主導の水際マラリア感染率調査が進められており、ヒト移動とマラリア感染移入の関係を明らかにしていくことが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
・核酸クロマトグラフィー法によるG6PD遺伝子型診断:プリマキンによるMDAでは副作用としてG6PD欠損症者における溶血反応が危惧される。平山らが中心となって進めている対象集団でのG6PD欠損症遺伝子構築から、アレルごとの機能欠損度合いについて個人及び集団のリスク評価を行う。また、平塚らが中心となって進めているG6PD遺伝子のアレル特異的PCR法と核酸クロマトグラフィーを用いたG6PDの遺伝子タイピングについて、さらにサンプル量を増やし、サンガーシークエンス法、および既存の迅速診断法を含めた表現型との比較解析を進め、流行地保健医療施設でのpoint-of-care診断へとつなげる。 ・CYP2D6酵素活性解析:プリマキンは生体内でCYP2D6により活性代謝物に変換され抗マラリア活性を発揮するが、CYP2D6の低活性群では 薬効が低いことが報告されている。本年度は、2016年に介入研究を実施したンゴデ島のみならず、キブオギ島、タカウィリ島、ムファンガノ島、ルシンガ島、内陸のウンゴイから収集したサンプルを用いて、対象地ケニア人集団のCYP2D6遺伝子多型の箇所・頻度について解析を進め、今後当該地域を対象に展開されるマラリア撲滅戦略 に資する情報を提示する。 ・プリマキンを含めた集団投薬(MDA)後のマラリア伝播様式:MDAにより原虫感染率は一時的に顕微鏡検出限界以下となったものの、二ヶ月後には伝播再興が認められたことをうけ、伝播再興について、低用量プリマキンを含めた薬剤の不十分な効果と、外からの原虫流入の両面の可能性から原因を検索していく。その方法として、再興時に現れた原虫の薬剤耐性関連遺伝子スクリーニングをはじめとした解析、再興を認めた患者の遺伝子型解析、および地域間でのヒト・原虫の移動に関する疫学的研究を進めていく。
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