研究課題/領域番号 |
26257506
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
服部 俊夫 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (30172935)
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研究分担者 |
江川 新一 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (00270679)
仁木 敏朗 香川大学, 医学部, 助教 (40558508)
久保 亨 長崎大学, 熱帯医学研究所, 研究員 (50444873)
C.-Y. HAORILE 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (50624821)
狩野 繁之 独立行政法人国立国際医療研究センター, 熱帯医学研究所, 研究部長 (60233912)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | デング熱 / マトリセルラー蛋白質 / マラリア / 熱帯災害感染症 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
デングウイルスは蚊ベクターによって伝搬され、幅広い症状を引きおこす。デング熱ウイルスは自然寛解が予測されるデング熱と、時に生命を脅かすデング出血熱に大別される。デングウイルスと宿主との複雑なやりとりにより病態が構成されるが、免疫系の反応は凝固系の活性化とも相関するので、凝固系マーカーとトロンビンにより切断される全長オステオポンチン(FL-OPN)と切断型オステオポンチン(trOPN)の測定をデングウイルス感染者で行った。材料は2010年に採取したマニラのサンラザロ病院のデング熱、デング出血熱65名の患者の血漿中のFL-OPNとtrOPNを発熱期と回復期で測定を行った。FL-OPN, trOPN, D-dimer, TATはDF, DHFの発熱期で健康人に比べて劇的に上昇した。回復期においてはFL-OPN値は減少したが、trOPNはDF, DHFでは劇的に上昇した。FL-OPN値はD-dimerとフェリチン値に相関したが、trOPN値はTAT,血小板数、ウイルス量と相関をした。これらの研究により、FL-OPN, trOPNがデングウイルス感染症にて、上昇することを始めて明らかにした。昨年報告したデング熱において上昇するGalectin 9(Gal-9)はOPNと同じくマトリセルラー蛋白に属する。マトリセルラー蛋白は細胞外液に存在する蛋白であるが機能的に、細胞外受容体、ホルモンなどと反応し、多様な生物活性を有するものであるが、FL-OPNはTh1を誘導するが、trOPNは凝固系の活性化を、Gal-9がTh2/Tregとの相関が強く、これらのマトリセルラー蛋白は異なる局面を反映する。これらの活性を総合的にとらえることにより、疾患の新たな局面が明らかにできる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
50例のタイのマラリアの解析は保存検体であったが、Gal-9, FL-OPN, trOPN及び、ルミネックス解析を行った。解析結果、Gal-9はサイトカイン・ケモカインの中ではIL-10に最もよく相関し、Gal-9の抗炎症活性がTreg/Th2との関連を持つことを明らかにした。さらに臨床検査所見ではクレアチニン(r=0.56)、ビリルビン値(r=0.37)、sGOT(r=0.56)との相関がよくみられ、重症度と相関し、臨床上有用なマーカーであることを明らかにした。デングウイルス研究においては、末梢血リンパ球を用いて、FACS解析をすることによりGal-9とその受容体である(Tim3)がNK(CD16)細胞上にあることを同定した。さらに診断では現在使用されているリアルタイムPCRに加え、ラテラルフローでウイルスRNAを同定する方法を開発中である。この系を用いると、デングのRNA陽性サンプルが可視化できる。インドネシアのパジャジャラン大学において、この方法のデモンストレーションを行った所、この方法を基にした共同研究をおこなうことで合意し、インドネシア政府の奨学金を持つ学生が2017年4月より東北大学の修士課程に就学することになった。さらに分離したウイルスを293T細胞に感染させる系を確立した。その系においてGal-9の影響を観察するとGal-9により感染のわずかな促進が見られた。さらに293T細胞にGal9-GFP遺伝子を導入し、その発現を今年度購入したEvos imaging systemを用いて解析することに成功した。それによるとGal-9は予想に反して核に存在せずに細胞質のみに存在することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
マラリアに関しては、マヒドール大学と協議のうえ、現在の解析データーはGal-9の臨床マーカーとしての価値は極めて高いということで同意を得た。そこで臨床データーのより揃った新たなサンプルを用いて解析するほうがその意義を確実に証明することができるということを合意し、マヒドール大学の倫理委員会に昨年の3月に新しい申請を行った。新しいサンプルは本年の5-6月に収集予定であり、その後Gal-9、OPN、ルミネックス解析を行う。さらに詳細な臨床データーをマヒドール大学は保持しているので、その臨床データーとの相関解析をマヒドール大学とdouble blindで行う。デングの末梢血リンパ球解析をさらに進め、より多数のサンプルを集め、血漿とリンパ球の双方を同時に解析する。その解析によりNK細胞に加え、CD4,CD8,単球細胞上でのGal-9, Tim-3に加えもう一つの疲弊細胞マーカーであるPD1を解析し、これらの細胞の比率がGal-9や他のサイトカイン・ケモカインあるいはウイルスRNAと相関するかを明らかにし、その重症化機構を解析する。既に予備実験においてLateral flow assayは成功しているが、わずかの非特異反応が存在する。ここでは使用するPCR primerなどを、塩基配列をもとに再調整して、完成させる。その完成した系の臨床開発をパジャジャラン大学とサンラザロ病院のそれぞれの臨床サンプルで行う予定である。さらに昨年に引き続きデングウイルス感染による細胞内からのGal-9の放出機構の研究に関しては、本年度はOnstage incubatorを購入し、Gal-9を発現した細胞にデングウイルスを感染させ、その細胞からのGal-9の遊離する様子をin vivo imagingで明らかにする。
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