研究課題
離散凸解析を工学・数学・社会科学など諸分野における共通の方法論として確立すべく,今年度は以下の成果を得た.離散凸解析の枠組みを利用して,DC計画問題(2つの凸関数の差で表される関数を最小化する問題)の離散版の理論を構築した.L凸関数とM凸関数が離散版の「双共役性」と「劣勾配」を持つことに着目して,Toland-Singer双対定理などを見出すとともに,DCアルゴリズムを提案した.さらに,凸拡張可能な離散関数に対して,lin-vex拡張と称する特別な形の凸拡張を用いた連続緩和を用いれば整数性ギャップを回避できることを示し,これに基づくアルゴリズムを開発した.費用制約の下での粗代替性をもつ効用関数の最大化を扱った.この問題は交換経済や組合せオークションなどの応用に自然に現れる.多項式時間近似スキーム(PTAS)をもつことを示し,より一般に,M凹関数と呼ばれる離散凹関数を費用制約の下で最大化する問題に対するPTASを提案した.このPTASは連続緩和問題の最適解の丸めに基づいている.Gale-Shapley(1962)の安定結婚モデルに対する離散凸解析を利用した拡張について,整数格子点上へと拡張されたモデルにおいて,評価関数がM-natural凹性をもつ場合に安定割当全体の集合が分配束構造をもつことを示した.さらに,評価関数が準M-natural凹関数ならば安定な割当の存在が保証され,安定割当全体の集合が分配束構造をもつことを示した.また,M凸関数のバリエーションの一つである歪M-natural 凹関数を評価関数とする取引ネットワクークモデルを提案し,離散均衡解の存在や,均衡解と安定解の関係等を研究した.ソフトウェアの整備では,ユーザーのニーズが高い,離散凸性判定に取り組んだ.
2: おおむね順調に進展している
本研究は,離散凸解析を工学・数学・社会科学など諸分野における共通の方法論として確立することを試みている.離散凸解析の理論と応用を, (1)連続・離散軸, (2)凸・非凸軸, (3)分野横断軸,の3つの観点から整理することによって,個々の数理的技法や応用諸問題の相互関係を明確にし,(a)数理手法の開発,(b)応用の開拓,(c)ソフトウェアの整備の3つの面で新たな展開を図ってきた.具体的には,以下のテーマについて研究を推進し,研究成果を発表し,いずれもおおむね順調に研究が進展している.まず,「数理手法の開発」においては,離散凸解析においても中心的な役割をなす双対性に注目して,様々な組合せ最適化問題に対するアルゴリズムの研究を進めた.グラフのマッチング問題等に関連する離散凸性を整理して,効率的に解ける問題と離散凸性の間に成り立つ関係を明らかにすることが課題とされていたが,ある程度の成果を得ることができ,一部について学会や論文誌で発表した.次に,「応用の開拓」については,ゲーム理論における効用関数の最大化問題におけるM凸関数の意義を明確にすることを実現し,当初計画通り,数理経済学,オークション,取引ネットワークへの離散凸解析の応用研究の進展が得られた.最後に,「ソフトウェアの整備」については,これまでに引き続き,離散凸関数の応用に関するデモンストレーションを整備して,WEB上に公開することを実現した.特にユーザーからのニーズが高い離散凸性判定にも取り組み,当初計画通り実装を実現し,WEB公開と共に学会発表を行った.以上より,現在までの達成度はほぼ予定通りであり,研究計画は順調に進展していると考えている.
本年度に引き続いて,「(a)数理手法の開発」,「(b)応用の開拓」,「(c)ソフトウェアの整備」の3つの側面に応じて,様々なテーマについて研究を推進し,研究成果を発表する.とくに,予定通りに研究が進んでいない部分については,重点をおいて研究を進める予定である.より具体的には以下の計画で研究を進める.まず,「(a) 数理手法の開発」であるが,グラフのマッチング以外に対しても,多品種流問題などに関連する離散凸性に着目して,より詳細に明らかにしていく.次に,「(b)応用の開拓」においては,社会工学,在庫理論における離散凸解析の応用研究について,より詳細に数学的に整理することを試みる.最後に,「(c) ソフトウェアの整備」においては,前年度に引き続いて,離散凸関数の応用に関する様々なソフトウェアとデモンストレーションを整備して,WEB上に公開する.この研究の遂行のために,以下の連携研究者からの協力を仰ぐ予定である.まず,田村明久氏(慶應義塾大学・理工学部)には,社会工学における離散凸性の研究をお願いする.岩田覚氏(東京大学・情報理工学系研究科)には,離散凸解析のアルゴリズムの設計において協力を仰ぐ.塩浦昭義氏(東京工業大学・社会理工学研究科)には,離散凸理論のオークションへの展開について研究を行っていただく.森口聡子氏(首都大学東京・社会科学研究科)には,アルゴリズムの実現と応用の開拓において協力して貰う.平井広志氏(東京大学・情報理工学系研究科)には,離散凸概念の一般化に関する研究をお願いする.小林佑輔氏(筑波大学・システム情報系)には,グラフにおける離散凸性の検討をしてもらう.最後に,土村展之氏(関西学院大学・理工学部)には,アルゴリズムの開発とソフトウェアの実現において協力をお願いする.
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 8件) 備考 (1件)
Annals of Operations Research
巻: 229 ページ: 565-590
10.1007/s10479-015-1835-3
Journal of Operations Research Society of Japan
巻: 58 ページ: 印刷中
Mathematics of Operations Research
巻: 40 ページ: 460-473
Journal of the Operations Research Society of Japan
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巻: ― ページ: ―
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Mathematical Programming
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences
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http://www.misojiro.t.u-tokyo.ac.jp/DCP/