研究課題/領域番号 |
26280004
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
室田 一雄 首都大学東京, 経営学研究科, 教授 (50134466)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 離散凸解析 / 最適化理論 / 数理工学 / 情報基盤 / アルゴリズム / 経済理論 / 情報基礎 |
研究実績の概要 |
諸分野における共通の方法論としての離散凸解析を発展させるべく,以下の成果を得た. 集合関数のM#(natural)凸性は,共役関数の劣モジュラ性と同値であることが知られているが,その証明はいくつかの命題を積み重ねた形となっている.本研究では,この事実に対する直接的な別証明を与えた.この証明は離散凸解析の専門家でない広い分野の研究者にも理解される形であり,離散凸解析の諸分野への浸透に寄与するものである. 整凸関数の近接定理や最小化アルゴリズムが昨年度までの研究で解明され,整凸関数の概念が離散凸解析において基本的な役割を果たすという認識が強まった.そこで,共役性に関わる整凸関数の性質を探求した結果,整数値整凸関数が整数劣勾配を有し,その結果として,双共役関数が自分自身に一致するという基本的な事実が判明した.このことは,長らく専門家の間で漠然と想定されていた事柄を覆す発見である.さらに,整数劣勾配が存在することを利用して,整凸関数に対するDC(差凸)計画の枠組みを構築した. 離散凸関数に対する射影,制限,合成積,変数置換などの基本演算について,性質が明らかになっていなかったものを網羅的に解明した.その結果,マルチモジュラ関数,整凸関数,離散中点凸関数を含む離散凸関数の主なクラスについて,その基本演算の可否を一覧表の形に整理することができた. オペレーションズ・リサーチの分野で離散凸解析の応用が盛んであるが,その文脈で最近米国で行われたバイクシェアリング問題の研究について,その数理的な本質がM凸関数のL1ノルム制約付き最小化として理解されうることを指摘し,この一般的な枠組みに対して,最適性条件を与え,最適化アルゴリズムを構築した.また,離散凸解析の在庫管理への応用の最初の論文(Lu-Song, 2005)の議論に不備があることを指摘して,その解決策を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,離散凸解析を工学・数学・社会科学など諸分野における共通の方法論として確立する試みであり,離散凸解析の理論と応用を,(1)連続・離散軸,(2)凸・非凸軸,(3)分野横断軸,の3つの観点から整理することによって,個々の数理的技法や応用諸問題の相互関係を明確にし,「数理手法の開発」,「応用の開拓」,「ソフトウェアの整備」の3つの面で新たな展開を図ってきた.具体的には,以下の通り研究を推進し,研究成果を発表し,いずれもおおむね順調に進展している. 「数理手法の開発」に関しては,M凸関数について多重交換公理や共役関数の劣モジュラ性との同値性などの性質を明らかにするとともに,整凸関数やマルチモジュラ関数を含む各種の離散凸関数の基本演算,共役性,近接定理をほぼ完全に解明した.さらに,海外との研究協力の結果,離散資源の公平な配分に離散凸解析が有効であることが判明し,その理論を構築しつつある.研究成果の多くは学会や論文誌で発表済みである. 「応用の開拓」に関しては,オペレーションズ・リサーチにおける在庫問題やバイクシェアリング問題,経済学・ゲーム理論におけるオークション理論などを離散凸解析の立場から整理し,計算機科学における値付き制約充足問題(VCSP)やオンラインアルゴリズムへの新たな応用を見出した.以上の成果の多くは学会や論文誌で発表済みである. 「ソフトウェアの整備」については,継続的に,離散凸関数の応用に関するデモンストレーションと参考資料を整備してWeb上に公開してきた. 以上のように,進捗はほぼ予定通りで,研究は順調に進展したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
「数理手法の開発」については,離散資源の公平配分問題の理論構築を海外研究者との共同研究として遂行する.また,昨年度に解明された整凸関数やマルチモジュラ関数の性質がアルゴリズム設計に利用できるかを探求する.「応用の開拓」については,オペレーションズ・リサーチにおける在庫問題と配置問題への応用を中心とし,グラフ上のマッチング問題における離散凸性の研究を継続する.「ソフトウェアの整備」については,引き続き,離散凸関数の応用に関する様々なソフトウェアとデモンストレーションをWeb上に整備する. この研究の遂行のために,以下の方々に協力研究者をお願いする予定である.田村明久氏(慶應義塾大学)にはゲーム理論における離散凸性について,岩田覚氏(東京大学)にはアルゴリズム設計について,塩浦昭義氏(東京工業大学)にはオペレーションズ・リサーチへの展開について協力をお願いする.森口聡子氏(首都大学東京)には整凸関数について,平井広志氏(東京大学)には離散凸概念の一般化について,小林佑輔氏(京都大学)と高澤兼二郎氏(法政大学)には,グラフ問題の離散凸性について協力をお願いする.土村展之氏(関西学院大学)と澄田範奈氏(首都大学東京)にはアルゴリズムの開発とソフトウェアの実現について協力をお願いする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は予期しなかった離散資源の公平配分問題に関する海外との共同研究の進展に伴い,当初予定より発表時期を後ろ倒しとし,高度な研究成果を得た後に,研究成果発表を行うことになった.また,本年度のデータ処理は,新たな機器を導入する必要なく,人件費をかけずとも行える範囲に収まり,物品費,人件費が抑えられた.以上,研究の推進に際して必要に応じて研究費を執行したため,当初の見込み額に差異が生じた. 今後,旅費および物品費に充当する.発表時期以外は,研究計画の方針に変更はなく,当初の計画を推進する.
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