研究課題/領域番号 |
26280016
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
池永 剛 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90367178)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 動画像符号化 / 映像情報システム / システムオンチップ / デジタル信号処理 |
研究実績の概要 |
高臨場感動画像通信・放送サービス実現のコアとなる、超高精細(7680×4320画素)動画像向けHEVC (High Efficiency Video Coding) 圧縮システムの低コスト化を可能とする技術を創出する事を目的とし、26年度は、画質を保ちながら演算量を削減可能なアルゴリズムの検討から着手した。 イントラ予測処理に対しては、エッジ検出に基づく低演算量なモードおよびデプス判断アルゴリズムを考案し、0.06dBのBD-PSNRロスで、41.5%の演算量削減が可能なことを確認した。整数画素精度動き予測処理アルゴリズムに対しては、単一方向予測に関しては、線形適応型の探索範囲モデルを、両方向予測に対しては、動き解析に基づく低演算量アルゴリズムを考案し、0.023dBのBD-PSNRロスで、42%演算量削減が可能なことを確認した。上記の成果は、それぞれ、IEICE Transactionや当該分野を代表する国際会議であるICIPで採択された。 また、HEVC特有の機能であるSAO (Sample adaptive offset)に関しては、クラス結合手法,事前決定手法とブロック境界予測手法を提案 した。これらは、低演算量化のみならず、ハードウェア向きのアルゴリズムとなっており、来年度以降のハードウェアアーキテクチャ実現に向けた成果として位置付けられる。 さらに、超高精細動画像を用いた、映像認識・検索やコンテンツ解析などの新たな機能の実現可能性に関する検討も平行して行い、クラウドベースの映像認識システム向けの時空間特徴およびMRFに基づく重要特徴量選択手法などを考案して、論文誌や国際会議(招待講演)などで成果発信を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、HEVCの重要機能である、イントラ予測、整数画素精度動き予測処理、SAO (Sample Adaptive Offset)に関してアルゴリズム検討を進め、それぞれ画質を保ったまま、演算量を大幅に削減可能なアルゴリズムを考案した。さらにそれらを成果としてまとめ、IEICE Transactionや当該分野を代表する国際会議であるICIP (IEEE International Conf. Image Processing)で採択され、情報発信を行った。さらに将来の映像システム全体を構成する上での差別化のキーとなる、高精細映像向けHDR(High Dynamic Range)フィルタ、クラウドベースの高精細映像検索・認識システム、バレーボールを対象としたスポーツ解析技術などの検討も進め、IIEEJ Trans. や多くの国際会議で成果を発信した。 また、当該分野で世界をリードする中国清華大学との共同研究を進め、共著論文などを発信した。さらに、将来の産業化を睨んで、大手企業との技術交流を積極的に行い、今後、これらの技術を産業につなげていく上で重要となる方向性に関して多くの知見を得た。海外情報発信としての取り組みとしては、APSIPA (Asia Pacific Signal and Information Processing Association)のDistinguish lecturerとして、中国南京大学、東南大学、タイのChulalongkorn大学などで、映像システムとその産業化に関する講義を行い、この分野の日本の先駆性をアピールした。 以上の取り組みを通じて、研究成果面や情報発信面で順調な進捗が果たせていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
HEVC (High Efficiency Video Coding) 圧縮システムに関しては、特に海外の大学や企業等で研究開発が活発化しており、引き続き多様な視点からのアルゴリズム検討を進め、この分野の世界レベルでの競争優位性へ貢献できるように尽力する。さらに、今年度からは、提案するアルゴリズムに基づくハードウェアアーキテクチャの検討にも着手する。また、HEVCを発展させた次の国際標準として、SCC (Screen Content Coding)やSHVC (Scalable High-efficiency Video Coding)の検討が進められているが、従来にない新たな応用を切り開く可能性がある一方で、演算量は極めて大きくなる傾向にあり、その低演算量化が強く望まれている。HEVCで培った知見を生かす形で、これらの国際標準に対しても検討の幅を広げ、成果発信を目指す。 一方、多くの日本企業との議論を通じて、映像圧縮という要素技術だけでなく、高精細映像システムをソリューションビジネスに生かす応用面での検討が、今後の日本企業の活性化に必要不可欠であることを痛感している。一つの事例として、昨年度から高精細映像を用いたスポーツ解析技術の取り組みを行っている。既にサッカー、アメリカンフットボールなどのスポーツでは、欧米を中心として大きな市場が形成されつつあり、日本企業の映像システム技術が大きな貢献を果たしている。東京オリンピックなどもにらみ、メダルにつながる可能性が高いバレーボール解析技術検討を引き続き行う予定である。さらに、映像認識システムや、AR技術などが、将来の高精細映像システム全体を構成する上での差別化のキーとなると考えており、圧縮技術と並行して検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算申請していた、評価用高精細ディスプレイ、高性能コンピュータが、当初想定していた額よりかなり値下がりし、安価に入手できたため、物品費が当初予算より少なくなった。また、旅費としては、投稿していた国際会議(カナダ開催)がリジェクトされたため、その分の予算が余る形となった。これらの理由により、70万円程度の繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
アルゴリズム評価に関して、多様な映像テストパターンを用いた評価に着手しており、シミュレーション評価の高速化のため、高性能PCを多数導入し、さらなる効率化を図る予定である。このための物品費を計上している。 また、種々の研究成果がまとまりつつあり、レベルの高い国際会議や学術論文誌等への投稿を通じて、成果の効果的な発信を目指す予定である。さらに、将来の成果の活用を目指し、企業等との議論の場を増やしていく予定である。これらのための、旅費や論文投稿費等を計上している。
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