研究課題/領域番号 |
26280016
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
池永 剛 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90367178)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 動画像符号化 / 映像情報システム / デジタル信号処理 |
研究実績の概要 |
高臨場感動画像通信・放送サービス実現のコアとなる、超高精細(7680×4320画素)動画像向けHEVC (High Efficiency Video Coding) 圧縮システムの低コスト化を可能とする技術を創出する事を目的とし、27年度は、画質を保ちながら演算量を削減可能なアルゴリズムの検討を継続して行った。単なるアルゴリズムの低演算量化ではなく、ハードウェア実装に適したアルゴリズムとするため、ブロックパイプライン処理にマッチした構造や並列化、ワーストケースを考慮した処理ステップの削減などを想定しながら、検討を行った。特にHEVC特有の機能であるSAO (Sample adaptive offset)に関しては、Code Tree Blockの境界部分のDeblockingの強さに基づくカテゴリー決定手法を考案し、評価により画質劣化や演算量を増やすことなくハードウェア実装可能なことを示し、その成果をIEEE VCIPで発信した。また、HEVCの拡張仕様として、それぞれ2015年、2016年に標準化されたSHVC (Scalable High-efficiency Video Coding)やSCC (Screen Content Coding)に対しても検討の幅を広げ、両者ともIntra予測を対象とした低演算化アルゴリズムを考案し、2件の国際会議で成果を発信した。さらに、日本の産業面を鑑みると、映像圧縮という要素技術だけでなく、高精細映像システムをソリューションビジネスに生かす応用面での検討も重要となってきており、その一環として、東京オリンピック等を想定したスポーツ解析技術の検討も行った。バレーを対象として、映像からボール追跡、選手追跡技術等の検討を行い、両者とも99%を超える高い追跡精度が可能なアルゴリズムを実現し、IEEE ICASSPなど4件の国際会議で成果発信を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、HEVCの重要機能であるインター予測、SAO (Sample Adaptive Offset)に関して、ハードウェア実装可能なアルゴリズム検討を進め、それぞれ画質を保ったまま、演算量を削減可能なアルゴリズムを考案した。また、HEVCの拡張仕様として、それぞれ2015年、2016年標準化されたSHVC (Scalable High-efficiency Video Coding)やSCC (Screen Content Coding)に対しても検討の幅を広げ、イントラ予測を対象とした低演算化アルゴリズムを考案した。さらにそれらを成果としてまとめ、当該分野を代表する国際会議の一つであるIEEE VCIP2015 (Visual Communication and Image Processing)などで発信した。また、SCCの低演算量化の成果を投稿した、CSPA2016 (IEEE Colloquium on Signal Processing & its Applications)では、Best Paper Awardを受賞するなど、注目を浴びた。さらに将来の映像システム全体を構成する上での差別化のキーとなる、高精細映像向けHDR(High Dynamic Range)フィルタ、バレーボールを対象としたスポーツ解析技術などの検討も進め、6件の国際会議で成果を発信した。 また、当該分野で世界をリードする中国清華大学、南京大学との共同研究を進め、共著国際会議論文などを発信した。さらに、将来の産業化を睨んで、電機・情報関連企業との技術交流を積極的に行い、今後、これらの技術を産業につなげていく上で重要となる方向性に関して多くの知見を得た。海外情報発信としての取り組みとしては、APSIPA (Asia Pacific Signal and Information Processing Association)のDistinguish lecturerとして、シンガポールのNTUなどで、映像システムとその産業化に関する講義を行い、この分野の日本の先駆性をアピールした。 以上の取り組みを通じて、研究成果面や情報発信面で順調な進捗が果たせていると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
HEVC (High Efficiency Video Coding) 圧縮システムに関しては、海外の大学や企業等で研究開発が活発化しており、引き続き多様な視点からのアルゴリズム検討を進め、この分野の世界レベルでの競争優位性へ貢献できるように尽力する。今年度は、LSI化の検討まで予定していたが、技術課題としては、ハードウェア実装向きアルゴリズムとして検討すべきものが多く残っており、アルゴリズム検討に注力する。昨年度までに行ってきたIntra予測やSAOに対するアルゴリズム検討に加えて、演算量の多いInter予測(モード選択)も視野に入れ取り組む。HEVCの拡張標準であるSHVC (Scalable High-efficiency Video Coding)やSCC (Screen Content Coding) に関しては、より幅広い応用が期待されるインター予測に対象を広げ、検討を行う。今年度が、本プロジェクトの最終年度となるため、国際会議のみならず、現在までに得られた成果を体系的にまとめ、IEICE等の学術論文誌を通じた成果発信を積極的に行う。 映像圧縮という要素技術だけでなく、昨年度に引き続き高精細映像システムをソリューションビジネスに生かす応用面での検討も行っていく。スポーツ解析技術、車載機器やプロジェクションマッピング、監視カメラ、HCIなど幅広い応用を想定しながら、そのコアとなる技術の検討を進める。特にスポーツ解析技術に関しては、今年度の挑戦的萌芽研究(28~30年度)に採択されており、両プロジェクトを密に行うことにより、相乗効果を発揮する。昨年度までに得られた成果をベースに企業とも議論を行った結果、スポーツ戦術システムからスポーツTV放送まで、東京オリンピックへの貢献のシナリオがクリアになってきており、それらを通じた社会貢献を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予算申請していた、テストパターン取得用の高精細カメラであるが、共同研究者より一時的に借用することができたため、今年度は、購入を見送った。このため、物品費が当初予算より少なくなった。また、旅費や雑費としては、投稿していた国際会議(数件)及び学術論文誌(3件)がそれぞれリジェクトされたため、その分の予算が余る形となった。これらの理由により、100万円程度の繰越金が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
最終年度にあたり、各種シミュレーション評価の高速化のため、高性能PCを多数導入し、さらなる効率化を図る予定である。このための物品費を計上している。 また、最終年度に向け、昨年度リジェクトされた論文成果を再投稿(学術論文誌1件は、採択され来年度4月に掲載)を行う。また、新たな研究成果に関しても、レベルの高い国際会議や学術論文誌等への投稿を通じて、効果的な発信を目指す予定である。さらに、将来の成果の実用化を目指し、企業等との議論の場を増やしていく予定である。これらのための、旅費や論文投稿費等を計上している。
|