研究課題/領域番号 |
26280031
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷川 亨 大阪大学, 情報科学研究科, 教授 (70576264)
|
研究分担者 |
津川 翔 筑波大学, システム情報工学研究科(系), 助教 (40632732)
小泉 佑揮 大阪大学, 情報科学研究科, 助教 (50552072)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 移動管理 / 経路集約 / モバイルインタネット / 携帯電話網 / LTE / ゲーム理論 |
研究実績の概要 |
膨大な数のM2Mデバイスの移動管理を,経路集約ベースで実現する経路制御プロトコルについて,基本的な方式の設計を完了し,目的の性能を得る見通しを得た.さらに本方式を次世代携帯LTE網に適用するには,携帯端末の協力を得てM2Mデバイスのメッセージを転送して貰うことが課題となることを抽出するともに,解決法を設計した. 第一に、経路集約については,ブルームフィルターを用いて下流から上流へ向かって経路集約する方式を設計し,性能を評価した.具体的には,50万台の携帯端末がLTE網に収容され,各携帯端末がレビーウォークモデルに従って移動する環境において,性能を評価した.50万台の端末への宛先を約73Kバイトの経路情報に圧縮可能であり,このように経路情報を圧縮しても,宛先へのパケット配送率として90%以上を提供できることを明らかにした.さらに,設計した経路集約方式を現実のLTE網に適用するために必要となる,携帯端末のデータ通信チャネルの起動,停止を管理するシグナリングプロトコルを設計した.シグナリングプロトコルは,停止中の携帯端末の起動に必要となる,LTE網全体への探索メッセージの送信(ページング)回数を大幅に削減している. 第二に、本経路集約方式では、M2Mデバイスのメッセージを,他人の携帯端末が転送することを前提としているため,携帯端末を協力させるインセンティブ機構を設計するとともに,本機構が有効であることを,ゲーム理論を用いて証明した.本インセンティブ機構では,通信事業者が,携帯端末に対して,M2Mデバイスのために転送したメッセージ量に応じた報酬を与えることで協力させる.携帯端末と通信事業者の振る舞いを,2ステージの順序ゲームとして定式化することで,このゲームが均衡点に収束すること,すなわち,十分な数の携帯端末の協力が得られることを証明した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標は,(1)膨大な数のM2Mデバイスを少ない経路情報だけを用いて,その移動を管理する経路制御プロトコルを設計すること,(2)プロトコルを評価するための評価モデルを確立することの,2つであった.この2つの目標を以下に示す通り,達成している. (1)経路制御プロトコルの設計:宛先への経路情報を弱い状態を用いて集約することが提案時の目標であり,目標を満たすため,ブルームフィルタを用いて宛先へ経路情報の正しさを弱くすることで,経路情報を小さくする経路集約方式を設計した.宛先の携帯端末やM2Mデバイスが移動しても,50万台の宛先に対して,73Kバイトの経路情報に集約できることを明らかにした.さらに,経路制御プロトコルのコアとなる経路集約方式だけでなく,携帯端末とLTE網の間のデータ通信チャネルや,携帯端末の起動,停止を管理するシグナリングプロトコルを設計した.これにより,LTE網で動作する経路制御プロトコル全体の設計を完了するとともに,プロトコルのコアとなる経路集約方式の性能評価を完了している. (2)評価モデル:設計した経路制御プロトコルが設計通りの性能を実現するには,M2Mデバイスのメッセージの転送に,他人の携帯端末が協力することが必須である.これに対して,この携帯端末の協力を評価するモデルを,以下の2ステップで開発した.まず,携帯端末の協力が得られるかどうかを2ステージの順序ゲームとしてモデル化した.次に,M2Mデバイスが協力を依頼可能な携帯端末の数は,携帯端末の密度や移動により変わるため,携帯端末の密度からその期待値を算出するモデルを作成した.これらの評価モデルを組み合わせることで,十分な数の携帯端末の協力が得られることが証明できており,評価モデルの開発は完了している.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は,経路制御プロトコルの詳細化に向けて,(1)携帯端末がLTE網のセル内を移動するミクロな観点での移動管理方式の設計を行うともに,(2)設計した経路制御プロトコルを現実的な条件で評価するためのシミュレーション技術の開発を行う. (1)前年度に開発したブルームフィルタを用いた経路集約方式は,携帯端末のLTEセル(基地局がカバーするエリア)間の移動(マクロ移動)を,管理する方式である.一方,携帯端末がセル内を移動すると,メッセージ転送に協力するM2Mデバイスが変わる,すなわち,携帯端末とM2Mデバイスの対応関係が変化する.このため,この対応関係を管理(ミクロ移動管理)して,M2Mデバイス宛のメッセージを転送する携帯端末を発見する方式を設計する.具体的には,近い将来LTEが提供予定のD2D (Device-to-Device)通信を用いることを想定しているが,D2D通信可能な距離はLTE通信と比較して短いため,基地局が宛先に近い携帯端末を探索することが鍵となる.そこで本年度は,この探索に基地局に蓄積した通信履歴を利用する方式を設計する. (2)前年度は確率モデルを用いて,経路制御プロトコルを構成する各方式の性能を評価したが,本年度は現実的な条件で経路制御プロトコル全体を評価するためのシミュレーション技術,具体的にはシミュレーションソフトウェアを開発する.提案方式では,携帯端末が移動する時,携帯端末と基地局間の通信品質は,フェージングやシャドウイングによる無線伝搬品質の悪化により劣化する.このため,M2Mデバイスは無線伝搬品質の良い携帯端末を選択する必要があるため,最適な選択方式を設計するともに,この選択を行った場合の性能を評価できるように,既存のメッセージ単位のシミュレーションソフトウェアに無線伝搬品質の変動を組み込む.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は経路集約方式による,経路情報の削減効果とメッセージ配達率の劣化について,理論的な解析とシミュレーションによる解析を並行して,進める予定であった.しかしながら,携帯端末がIoTデバイスのメッセージを転送する動機の効果についても,併せて解析する必要が生じた.これに対して,シミュレーションによる解析が中途半端になるよりも,理論的な解析を初年度に集中させる方が,結果的に研究の進捗が早まると考え,初年度は理論的な解析を中心に進めた.この結果,大規模なシミュレーション用のワークステーション等を平成26年度に購入する必要が無くなったため,物品費を中心に,平成26年度の実施額が計画額より下回った.
|
次年度使用額の使用計画 |
平成26年度は理論的な解析を,平成27年度はシミュレーションを用いた解析を中心に進めることにした.また実証に向けた予備的な実験も検討しており,平成27年度では,平成26年度に未使用であった物品費と併せて物品費等を使用することとし,具体的には,シミュ―ション用,検証用の機材等を購入する.
|