メタ認知(metacognition)は、cognition about cognitionと呼ばれ、より上位のメタな視点から、自己の内部の状況を、モニターする能力を指す。自己の判断の確からしさ(自信の程度)を報告する能力は、メタ認知の典型例である。これまで、メタ認知の内容は、本人にしかアクセスできないもので、ヒトの言語報告に頼っていたが、近年、非言語なテストを用いて、その能力の一端を評価することができるようになってきている。そこで本プロジェクトの一つとして、動物(サル)を対象に、非言語的なメタ認知課題を遂行させ、その時の神経活動を多数記録し、メタ認知をつかさどる神経メカニズムの詳細を明らかにすることを計画している。初年度にあたる本年度は、主にサルの行動実験を立ち上げた。サルには、ドットモーションの刺激を提示して、その動きの向きの判断をさせた後に、その判断に対する自信の高低を、2種類のバーの選択行動によって推定した。すなわち、知覚判断が正しいときに大きな報酬をもらえ、間違えたときには、報酬が全くもらえないハイリスク・ハイリターンのバーと、知覚判断の正誤を問わず、少量の報酬しかもらえないローリスク・ローリターンのバーである。ドットモーションのコヒーレンスを変化させて、複数のサルの行動データを解析すると、視覚刺激が曖昧になればなるほど、知覚判断の誤答率が増加すると同時に、ローリスク・ローリターンのバーを選択する率が増加した。以上の結果は、動物が下した判断に対する自信が高いとには、ハイリスク・ハイリターンのバーを、自信が低いときは、ローリスク・ローリターンのバーを選択すること、その選択率によって、動物のメタ認知を定量化できることを示している。
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