研究課題/領域番号 |
26280056
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
長尾 智晴 横浜国立大学, 環境情報研究科(研究院), 教授 (10180457)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 画像、文章、音声等認識 / 人工知能 / 機械学習 / アルゴリズム / システムオンチップ |
研究実績の概要 |
本研究では,画像処理・認識を行う回路を進化計算法と機械学習を用いて全自動で構築する方法に関する研究を行なっている.画像処理・認識を実現する処理構造(回路)に制約を設けた上で,多数の事例に対する機械学習を通して進化計算法によって最終的な回路を最適化する.これによって,画像処理・認識を実際に製品等で用いる際の開発過程であるアルゴリズムの考案とソフトウェアによる記述,SoC(System on Chip)開発,ハードウェアへの実装の手順を統一的に全自動化する. 本年度は特に低解像度画像を高解像度画像に変換する超解像処理,および画像認識の前処理として有効な画像の領域分割処理を中心にして研究を進めた.本研究では,元画像を低解像度化した画像を作り,低解像度画像から高解像度画像(元画像)への局所的な画素パターンの変換規則を進化計算法を用いてネットワーク構造で実現する.そのために多数の画像を基にした機械学習を行なった.その結果,超解像処理では,現在世界最高レベルと言われているGlasnerらによる超解像処理による画質とほぼ同等で,処理速度がその手法の約1万倍の性能をもつセル型回路の開発に成功した.本手法によって開発された処理回路は極めて単純な構造をもっており,実際に回路化することが容易である.本方式では,本研究が目指している,“処理アルゴリズムを開発することなく,多数の処理事例をコンピュータに与えることで,求められている処理を実現する回路を全自動で構築する”というプロセスを忠実に再現したものであると考えられ,今後の本研究の成果が大いに期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で当初,平成26年度に次に示す(1)~(3)の研究内容を計画していた. (1)“近傍型”の回路自動生成法の開発:任意に結合させた小規模な回路をセルラー状に配置した構造を基本構造とみなす.近傍型回路網の最適化を事例ベース学習で最適化することに対して適した新しい進化計算法を開発する. (2)超解像処理などのセル型回路の自動構築:(1)で開発した新しい進化計算法を用いて低解像度の画像を高解像度化する超解像処理を行なう回路を自動構築する. (3)セル型回路のハードウェア化の検討: (2)で開発した回路をハードウェア記述言語(Verilog)で論理回路設計し,ゲートレベルシミュレーション・タイミング解析などを行なってチップ化を検討する. 本年度は(1)~(3)について順調に研究を遂行した.(1)につては,進化計算における遺伝子型・表現型の記述方法と効率の高い世代交代法を開発するとともに,回路の最適化にCGP(Cartesian Genetic Programming)を用いる方法を開発した.この回路を(2)で超解像回路に適用した結果,世界最高レベルの画質で,かつ約1万倍の処理速度を達成した.この成果を学会で発表した結果,学会だけでなく産業界から高く評価された.さらに(3)で回路化の検討も行った.以上により,本年度は当初計画通りに研究を遂行し,優れた研究成果を残すことができたため,本研究はおおむね順調に進展しているものと自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画を次に示す. (1)“広範囲型”の回路自動生成法の開発:ここでは,画像中の比較的遠く離れた画素との関係をもっと直接的に考慮する“広範囲型”モデルとその最適化法を開発する.単に近傍を大きくするのではなく,各画素から直接読み書きできる共有メモリを用いて重要な情報を高速にやり取りすることができるモデルなどを検討する. (2)“全体型”の回路自動生成法の開発:次に,画像全体を考慮しなければできない問題向けの“全体型”モデルとその最適化法を開発する.このモデルは,画像中の各画素を中心とする領域の図形・画像特徴などを共有メモリに出力し,メモリ内に蓄積された特徴量から自己組織化的に異常部分を検出するものである. (3)上記(1)および(2)の方式を実際に産業界などで利用することができる問題に適用してそれらの有効性を確認する.現在想定しているのは,ステレオ距離計測回路あるいは単眼カメラを用いた移動ステレオ処理回路などの距離計測回路,さらに画像の領域分割に意味を持たせたsemantic segmentation,欠陥検査並びに医用画像の異常/正常判定などの画像全体を分類する問題などである.いずれも本方式によってこれらの問題が実現できれば,それぞれの分野での処理の高精度化と高速化を実現することができるため,本研究の成果が大いに期待される.本研究では,さらに構築した回路のハードウェア化についても検討することで,産業応用を容易にしたいと考えている. (4)本研究の成果を,学会や国際会議,論文などで広く社会・産業に還元する予定である.
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