研究課題/領域番号 |
26280064
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
力丸 裕 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (90260207)
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研究分担者 |
小林 耕太 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (40512736)
飛龍 志津子 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (70449510)
船曳 和雄 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所, システムズ生物学部門, 副部長 (00301234)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 応用光学 / 生物・生体工学 / 神経科学 / エコーロケーション / 移動体通信 / 混信回避 / 内耳有毛細胞 / 国際情報交換(米国、中国、台湾) |
研究実績の概要 |
本研究では平成26年度に、アブラコウモリ(Pipistrellus abramus)の聴覚系末梢における微弱信号抽出機能を解明するために蝸牛マイクロフォン電位(CM)、聴性脳幹反応(ABR)の第1波である蝸牛神経の複合活動電位(CAP)を計測した。また、コウモリ聴覚系脳幹での音情報抽出機構を解明するために、予備実験としてマウスの下丘での聴覚機能・構造計測を脳顕微内視鏡で実施した。さらに、エコー信号が他個体音声信号と混信する際にCF-FMコウモリであるキクガシラコウモリ(Rhinolophus ferrumequinum)が用いる発声行動をコウモリ搭載の小型軽量マイクで計測した。 微弱なエコーが聴覚系末梢で信号化される機構を知るために、CMとCAPを覚醒状態で計測した。その結果、CAPでは、40 kHzに対する感度が最高で、40 kHzの微弱信号を特に増幅する機能が存在することが分かった。40 kHzは、アブラコウモリが放射する下降FMパルスの端末周波数で、獲物を検知するために利用すると考えられる。 細い光ファイバー(外径300マイクロm,6000本束)から成る脳顕微内視鏡をマウスの下丘に挿入し、カルシウム感受性色素Oregon greenの励起反応を用いて、音刺激に対する反応を記録した。この結果、白色雑音やトーンバースに対する反応が記録できた。同一音に対して、空間的に異なる複数箇所が同時に反応した。また、低周波数に反応する部位は背側部分で、周波数が高くなるにつれ反応部位が腹側に移動した。 複数個体が同時飛行する条件下や人工的妨害音呈示条件下では、キクガシラコウモリは、信号抽出に使う周波数が他個体と近い場合には、周波数を遠ざけて混信回避するのではなく、反対に周波数をさらに接近させる発声行動を実施することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アブラコウモリ(Pipistrellus abramus)の聴覚系末梢における微弱信号抽出機能を解明するために蝸牛マイクロフォン電位(CM)、聴性脳幹反応(ABR)の第1波である蝸牛神経の複合活動電位(CAP)の計測が成功した。その結果、微弱エコー信号を検知可能な信号増幅機構が内耳・蝸牛神経に存在することが示唆された。 聴覚系中脳である下丘からの脳内視鏡による光計測を超音波げっ歯動物マウスを用いて行った結果、反応部位が時間的・空間的に移動することが分かった。今後のコウモリを用いた実験に道が開かれた。 複数個体同時飛行中のエコー信号混信対策として、エコー周波数を接近させる逆説的行動をする興味ある事実が明らかとなった。以上の通り、研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた結果に基づき、次のような今後の研究推進方策を策定した。 聴覚系末梢に、強いエコーではなく微弱エコー信号を非線形増幅する能動的機構が存在する可能性が高いと考えられるが、感度増幅機能の神経機構を蝸牛マイクロフォン電位(CM)と蝸牛神経複合活動電位(CAP)を指標として詳細に探る。また、中脳における聴覚系の主要神経核である下丘での周波数情報処理機構と時間情報処理機構を解明するためにマウスでの基礎実験終了後に、コウモリを用いた実験を開始する。 さらに実験を発展させて、コウモリに搭載な小型軽量無線式生体アンプ(テレアンプ)を試作し、飛行中のCMやCAPを音声信号とともに計測し、発声行動と聴覚系神経活動との因果関係を明らかにする計画である。 以上の研究で得られた成果は、国内外の学会で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者と研究分担者が異動することになり、機材の購入を次年度以降に延期したため。
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次年度使用額の使用計画 |
テレメトリ式生体アンプの製作や顕微内視鏡用レーザー光源を購入する計画。
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