研究課題/領域番号 |
26280067
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂本 修一 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (60332524)
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研究分担者 |
寺本 渉 熊本大学, 文学部, 准教授 (30509089)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バーチャルリアリティ / マルチモーダルインタフェース / 認知科学 / 情報システム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,よりリアルで高い臨場感を有するVRシステムを構築する鍵となると考えられる人間の自己運動知覚メカニズムと,自己運動時の視聴覚による外界空間認識メカニズムを明らかにし,明らかとなった知見に基づいて,視聴者の自己空間を精密に再現可能な自己運動感応型VR空間創成技術を構築することである。 平成27年度は,新たに完成された超静音型リニアレールに,これまで実施してきた実験環境を再構築した。この新しいシステムは前後左右の加速度刺激を提示することができ,前後にしか動作しなかった既存の加速度刺激提示装置に比べて,様々な方向への自己運動時の様相を明らかにすることが可能である。 実験環境再構築後は,まず,前後左右全ての方向への加速度運動中に知覚される音空間の変容について分析した。同一加速度で前後左右に運動させた際の主観的真横(前後運動時),主観的冠状面(左右運動時)を測定したところ,いずれの方向への加速度運動時にも主観的真横,および,主観的冠状面が物理的な位置に比べてずれていたが,このずれと自己運動方向との関係は,前進運動時のみ他の運動方向と異なっていた。このことから,前方向の運動は人間にとって他の運動とは異なるという興味深い結果が示唆された。 次に,外界空間知覚において聴覚以上に重要な感覚情報である視覚情報の影響を明らかにすべく,ヘッドマウントディスプレイにより視覚的に自己運動知覚を生じさせ,実際の加速度運動と組み合わせて外界音空間知覚の変容について分析した。前進等加速度運動中にランダムドットを操作して視覚的に前後の自己運動を誘起させ,主観的真横を測定した結果,知覚される視覚情報と自己運動情報が整合している時のみ,両者が統合された形で主観的真横の変容に作用するという結果が得られている。このことから,外界空間を模擬する際は,各感覚情報の整合性を重要視すべきであることが改めて示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たな実験機器への実験環境の移行を終え,当初の予定の研究課題のうち,【視覚・聴覚・前庭覚による自己運動知覚メカニズムの解明】に関して実験結果からそれぞれの感覚情報の影響が明らかとなり,さらに全ての感覚情報の整合性が重要であるなど,自己運動知覚に対する寄与度についても知見が得られている。自己運動の能動性と外界空間知覚についての関係に関しては平成26年度に前倒しで論文化を済ませており,各感覚情報と音空間知覚に関するモデル化についても分析を開始し始めた。さらに,平成28年5月には国際学会で発表が予定されるなど,対外発表について順調に推移している。 以上のことから,本研究は当初予定通りおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は本研究の最終年度になることから,これまでと同様に知覚心理実験を精力的に遂行しつつ,人間の外界空間知覚モデルの構築とその高精度化に注力する。特に,身体近傍空間と遠方空間との違いについて,新しく完成したリニアレールに実験系を構築し,本格的に実験を実施する。これら得られた成果を統合してシステム構築に向けた指針作りを行い,本研究の目的の達成を目指す。 その一方で,本研究を元にした国際共同研究加速基金に採択されたこともあり,得られた研究成果の対外発表,特に,海外での研究発表を精力的に行い,国際共同研究としてスムーズに移行できるように,準備を進めていく。実際に,8月に滞在予定のOldenburg Universityに一週間訪問することが決定しており,その際に詳細を打ち合わせる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで使用していた加速度運動提示装置に比較して,極めて静音で,動きの精度も高く,かつ,吸音処理を施した環境で設置された新しい実験装置への実験環境再構築を行ったことから,一部の知覚実験の実施が次年度に変更になった。実験環境再構築に必要な物品の購入があったため,平成27年度自体はほぼ予定通りの予算消化であったが,その分,平成26年度から繰り越された予算,特に実験参加者謝金についての予算消化が当初予定より少なかったため,平成28年度使用額が残ることとなった。 ただし,本研究での実験精度を上げるためには,新しい実験装置への実験環境再構築が必要不可欠であったことから,構築したシステムを用いた実験を平成28年度は引き続いて精力的に行い,当初予定のマルチモーダル外界空間知覚モデルの構築を進めていく。
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次年度使用額の使用計画 |
先にも述べたように,今回の次年度使用額の多くは知覚心理実験に参加する実験参加者謝金であり,新しい実験環境を用いた実験を平成28年度は精力的に行うことで,予算を使用する予定である。 それとあわせ,国際共同研究加速基金に採択されたこともあり,本研究成果のアピールや今後の共同研究の打ち合わせをするべく,国外への出張等,旅費で予算を使用することを考えている。
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