研究課題/領域番号 |
26280081
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
岩崎 敦 電気通信大学, 情報システム学研究科, 准教授 (30380679)
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研究分担者 |
尾山 大輔 東京大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (00436742)
安田 洋祐 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (70463966)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | メカニズム設計 / ゲーム理論 / 最適化 / 電力市場 |
研究実績の概要 |
2016年4月より電力の小売自由化が実現し,さらに2018年から予定されている発送電分離に向けて,様々な規模の電源をもつ供給家と需要家が電力を取引する電力市場の整備が急務となっている.本研究課題は様々な社会的・技術的制約を考慮した電力市場メカニズムの理論的基盤を構築することを目指す.前年度の調査により,電力市場は消費者の電力需要を最小の費用で満たす方法を提供するが,通常の財と異なる特徴として,短期と長期の効率性があり,それらを同時に満たすための「容量市場」があることがわかった.
当該年度は,これら2つの異なる市場を組み合わせた容量市場を理解するために,不完全観測下の多市場接触のモデル化と解析を進めた.これはプレイヤが複数のゲーム(市場)をプレイする「多市場接触」下において,どのような振る舞いが均衡として実現するかを理論的に明らかにした.とくに,それぞれのプレイヤが相手の行動に関する情報(シグナル)を私的に観測する不完全私的観測下において,どんな振る舞いが均衡として実現するかはほとんど知られていない.しかし,これを明らかにすることは,電力市場における談合の有無を検証する際に重要となる.
これに対して,多市場接触における非自明な均衡戦略を発見し,その均衡条件の構築に成功した.この戦略は協力状態と処罰状態の2状態からなる戦略で,2つの状態を観測したシグナルの数に関して非線形的に遷移すること,および処罰状態で全ての市場(ゲーム)で相手を処罰するのではなく,一部の市場でのみ処罰することを特徴とする.さらにこの戦略は,1市場下で高い均衡利得を実現するとしてよく知られている戦略(Ely and Valimaki 2002 によるしっぺ返し戦略の変形)より高い1市場あたりの均衡利得を実現している.これは私的観測下においては世界初の結果となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように,従来未知であった不完全観測下の多市場接触下において,非自明な均衡戦略を発見した.この成果は複数の人工知能分野の国際会議ランキングにおけるトップ国際会議の1つであるAAMAS にショートペーパーとして採択された(採択率268/550,48.7%).また,関連する内容を最適化分野で著名なRAMPシンポジウムで講演した.
また,電力の売買は,複数の売手と買手が個別にマッチされるダブルオークション方式をとることが多い.病院や交通機関といった公共性の高い買手に優先的に電力を割り当てるといった社会的な制約を考慮したダブルオークション方式を考えるには,制約を満たすことを前提としたマッチングメカニズムが必要となる.当該年度は,金銭のやり取りがないケースにおける制約つきマッチングメカニズムを開発した.その成果の一部が人工知能分野のトップジャーナルであるArtificial Intelligence (Impact factor 3.371) に採択された.またこれに関連する内容を経営情報学会秋季大会にて,分担者安田ともに企画セッションを行った.
最後に,またパラメトリック表現によるメカニズムデザインについても,AAMAS にショートペーパーとして採択されている(採択率314/670, 46.8%).この研究では予算の制約に直面する参加者のためのオークションメカニズムを対象に実験を進めており,さらに大規模なメカニズムデザインに適用できるよう改良しつつ,英文ジャーナルへの投稿・採択を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で述べたように,従来未知であった不完全観測下の多市場接触下において,非自明な均衡戦略を発見した一方で,この戦略が最適ではない,すなわち他の戦略がより大きな利得を均衡で達成しうることを,数値解析で明らかにした.そこで,本年度は一般的な市場数・情報構造・割引因子の下で最適な均衡利得を与える戦略のクラスを特徴づけることを目指す.具体的には,Ely, Horner, and Olszewski 2005 の信念不問均衡利得ベクトルの特徴付けをもとに,多市場接触における均衡利得集合を計算し,もっとも効率的な利得ベクトルを達成する均衡戦略を構築していく.その過程を通して,多市場接触の均衡においてどのような意思決定が談合のキーになるのかを明らかにし,その実証研究に資する理論を構築する.
さらに,マッチングメカニズムおよびパラメトリック表現によるメカニズムデザイン技術についても,それぞれ支払い付きマッチングメカニズムや大規模メカニズムへの拡張・改良を進め,トップ国際会議やトップジャーナルへの採録を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度3月に予定していた人件費が発生しなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度での人件費・謝金などで支出する予定.
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