研究実績の概要 |
2016年4月より電力の小売自由化が実現し,さらに2018年から予定されている発送電分離に向けて,様々な規模の電源をもつ供給家と需要家が電力を取引する電力市場の整備が急務となっている.本研究課題は様々な社会的・技術的制約を考慮した電力市場メカニズムの理論的基盤を構築することを目指す.前年度は電力市場における短期と長期の効率性を同時に考慮する「容量市場」モデルを分析するため,不完全観測下の多市場接触を解析した.
具体的にはプレイヤが複数のゲーム(市場)をプレイする「多市場接触」下において,どのような振る舞い(戦略)が均衡として実現するかを理論的に明らかにした.この戦略は,1市場下で高い均衡利得を実現するとしてよく知られている戦略(Ely and Valimaki 2002 によるしっぺ返し戦略の変形)より高い1市場あたりの均衡利得を実現している.これは私的観測下においては世界初の結果となった.この成果はアルゴリズムゲーム理論分野Symposium on Algorithmic Game Theory (SAGT, 採択率約45%=28/62) に採択された.
また,電力の売買は,複数の売手と買手が個別にマッチされるダブルオークション方式をとることが多い.病院や交通機関といった公共性の高い買手に優先的に電力を割り当てるといった社会的な制約を考慮したダブルオークション方式を考えるには,制約を満たすことを前提としたマッチングメカニズムが必要となる.前年度までの成果をもとに,当該年度は金銭のやり取りがあるケースにおける制約つきマッチングメカニズムを開発した.この成果は人工知能分野のトップカンファレンスであるInternational Joint Conference on Artificial Intelligence (IJCAI, 採択率約25%=137/550)に採択された.
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