研究課題/領域番号 |
26280094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊庭 斉志 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (40302773)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 進化計算 / 遺伝的プログラミング / 発生型システム / Evo-devアプローチ / 遺伝的アルゴリズム / 進化型ロボット / 遺伝子ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究では,「進化発生アプローチ」という考えに基づいて,新奇なプログラム進化の手法(発生型遺伝的プログラミング)を構築する.本研究の目的は,自然の発生の過程を緊密にモデル化することではなく,単純な理想化により生体の有利さを示すようなシステムを構築することである.すなわち,自己修復する人工物を構成する新しい方法を構築し,トップダウンの設計では達成できない複雑で知的な行動を実現する. 本年度の研究では,これまでの進化的計算と遺伝子ネットワーク推定に関する成果を基盤にして,以下の開発研究を遂行した. プログラム生成のための「遺伝子ネットワーク」を構築するメカニズムの基本的な設計を行った.特に,ネットワークの部分構造に関する因果関係モデルの開発,及び効率的な構造パラメータ推定の効率的実装を重視して設計した. 遺伝子ネットワークでは情報が動的にシステムの時間発展の中にコード化されることが重要である.そのためこれを利用してプログラム進化を実現し,ある種の拘束条件での準最適プログラムの探索能力を検証した. 従来の遺伝子制御ネットワークの研究では,必ずしもその本質的な性質が実現されている訳ではなかった.たとえば人工的なEvo-Devoアプローチが自然のシステムと違う点の1つは,結合部位が1つに定まっていることである.一方,実際の生物での遺伝子結合部位はなめらかな結合(soft-biding)である.これは,多くのタンパク質が上流・下流遺伝子配列に結合するため,化学物質の結合が確率的に左右されるからである.そこで本研究では,確率的なモデル(ノンパラメトリックなベイズモデル)を用いてネットワークの構造とパラメータをより効率的に推定する手法を試みた. さらに,このシステムをさまざなベンチマーク問題に適用して有用性を検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子ネットワークの推定手法の有効性を実験的に検証した.さらにベンチマーク問題での性能ではおおむね良好な結果が得られている.また実際的な応用であるヒューマノイド・ロボットの適用のための準備状況も順調である.またバイオ関係のデータへの応用も行っていて,有望な成果が得られている.たとえば,人工解糖系オペロン構築の最適化を試み,人工解糖系オペロンを持つ大腸菌の増殖速度をある程度の精度を持って予測することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は以上の成果をもとにして,以下の点の研究を行っていく. 1. 「遺伝子ネットワーク」に基づくプログラム進化において,進化発生アプローチに基づく遺伝的プログラミングの枠組み(発生型遺伝的プログラミング)を構築する. 2. 提案手法をいくつかの問題領域に応用し,プログラム進化のためのモジュラー性が効果的に実現されているかを検証する. 従来の遺伝的プログラミングでは,遺伝子型と表現型が直接関係するようになっていた.その結果,複雑で階層構造のあるような解を求めるのに必ずしも効果的ではなかった.つまり,遺伝子型と表現型はほぼ一対一の単純な対応であった.このような直接コード化した方法ではスケーラビリティが乏しく,生体機能の複雑さや生物の精巧化を実現することは難しい.そこで本アプローチでは,胚発生(embryogeny,胚形成)に基づくような間接的な表現型のコード化を提案する. 27年度の研究では,コード化のモジュラー性を検証する.検証法としては,ベンチマーク問題に適用した進化の結果に関して階層的な繰り返し構造が得られるかを解析することが考えられる.生物学の知見から,獲得されたゲノム(遺伝子型)を詳細に分析することにより,同じような構造は似たような遺伝子の発現パターンを示すことが分かっている(ただし発生の異なる段階で現れることもある). さらに,実際的な応用として,ヒューマノイド・ロボットに対しては,動作設計や協調行動計画に応用し,提案手法の有効性を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年9月までに遺伝子制御ネットワークの推定とベンチマークでの性能評価を終え、平成27年3月までに大腸菌の実データなどを用いてより実際的な実証実験を終える予定であった。 しかしながら、推定手法の基本設計作成中の平成26年7月に、新たな確率モデルの応用可能性が見出されたことから、より詳細な調査を実施する必要が生じた。 この拡張に関わる検証実験を平成27年4月から4か月かけて行い、とりまとめを含めて当初の初年時計画の完了時が5か月おくれて終了するように計画を修正した。
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次年度使用額の使用計画 |
このため次年度に予定されていた費用の他に、物品費として、データ解析と実証実験設備構築に係る経費として、250,000円が必要である。また、謝金等として、データ解析及び実験補助に係る支援研究員の雇用経費として、150,000円×2ヶ月=300,000円が必要である。
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