生命にアイデアを得た進化計算の応用を通じて培われた探索戦略を、分子上に実装したウェットGA を提案し、タンパク質工学に応用してきた。タンパク質tyrRS の基質改変をテストベッドとして、12 世代の理想的な集団分布の推移を実現した。改変されたタンパク質の活性は実用に耐えるレベルに達している。本研究はこれらの成果を踏まえ、スパイラルの次の段階として計算モデルを洗練化し、実装を試みた。新しいモデルはネットワークなどを通じて安価に提供されるクラウドなどの並列計算資源に適しており、進化計算の新たな展開が期待される。具体的には、WetTDGA の最適化能力の理論解析として、まず、最適化としての困難さを表現する新しいモデルの提案と解析を行った。個々の現象の精密なモデル化のかわりに最適化の困難さに関わる地形の複雑さをモデル化した。タンパク質工学でよく用いられるNK 地形モデルは、tyrRS の基質改変のような大域的多峰性の困難な最適化問題の地形の表現には不適当であると考え、新しいモデルを提案した。次に、tyrRSの基質改変実験向け最適パラメータの設計を行った。提案された世代交代モデルから、適応度分布に応じたサンプル個数など、実験向けの最適パラメータを決定した。理論解析の途上で、当初予想したほど並列計算の効率が上がらないというこんながシミュレーションによって観察された。進化計算の並列度すなわち集団サイズと、最適解を発見するまでの世代数とのトレードオフについて、代表的なベンチマーク問題である巡回セールスマン問題と関数最適化問題を用いて、より詳細に調べた。解くべき最適化問題が簡単すぎると、並列度は無駄になることがわかった。開発した進化計算を免疫細胞の動的応答のモデリングにおけるパラメーター最適化に応用し、それまで知られていなかった新しいオフセット要素の存在を示唆する結果を得た。
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