昨年度までに構築した筋腱駆動装置を用いて,CM関節固定が母指尖端の可動域に与える影響を実験的に検証した.具体的には未固定屍体6体を用いてCM関節固定前後での関節運動の変化を調査した.母指の関節運動に関与する内在筋(APB,OP,FPB,またはAP)に重錘(0,100,200,300,400,または500g)をかけ,筋腱駆動装置を用いて外在筋(EPL,FPL,APL,またはEPB)を一定速度(2mm/秒)で牽引し,それにより生じる母指の3次元的な運動を光学式モーションキャプチャシステムを用いて計測し,関節固定前後のデータを比較検討した.母指の指尖が描く軌跡は,CM関節固定前に比べて固定後には約3割に減少していた.またその制限される領域は,おもに手掌に近い部分であることが明らかになった.
さらに,屍体から取得した形状データを参照して,母指を含む手の筋骨格モデルを構築した.このモデルと,外力と指先力の力学バランス,指先力と筋聴力の力学バランス,そして指先に滑りが発生しないという3つの制約条件を導入することで,母指の姿勢を与えた時に,筋張力の二乗の総和が最小になるような,接触力と筋張力を計算するための静力学ソルバを構築した.これを用いて,筋張力の二乗の総和が最小になるような把握姿勢を探索する最適化プログラムを実装することで,コンピュータ上で仮想的に把握姿勢や運動機能の変化が予測できるようになった.
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