本研究の目的は、生体信号を利用してマルチモーダルな「かわいい人工物」の定量的構成法を導出することである。平成28年度は、前年度までの研究成果を発展させて以下の成果を得た。 ・前年度までに、実環境における触感とバーチャル環境における視覚情報を組み合わせた感性評価実験を実施した。具体的には、物理属性(樹脂表面に塗布するビーズの粒子径)を調整した触素材サンプルと、HMD(Head Mounted Display)を用いたバーチャル環境における色相のモデルの提示を組み合わせ、実験協力者に、オノマトペを含む形容詞に関して評価してもらった。本年度は、ビーズの粒子径と色相と実験協力者の世代と性別をパラメータとして実験結果を種々の手法で解析し、その結果から、触覚情報と視覚情報を変数とした「かわいい感」のモデルを構築した。 ・生体信号測定装置を用い、心拍から算出するSDNN(心電図のRR間隔の標準偏差)が有用な指標であることを、複数の感性評価実験で確認した。 ・平成27年度に作成したオリジナルのかわいいイラスト6種類を用いて、2種類のイラストを提示してどちらがかわいいかを回答させ、その際の視線情報を視線追跡装置により取得する実験を、年齢・性別の異なる実験協力者を対象として実施した。実験結果の詳細な解析から、2種類のかわいい評価の類似性と視線移動の関係性や、おもに性別によるイラストの注視場所の差異などが、明らかになった。 ・本研究の応用を模索する意図で、約200種類のかわいいスプーンのオリジナルデザインを収集し、それを整理して、スプーンデザインの物理的属性による「かわいい感」の性別・国籍(日本とタイ)による差異を明らかにする評価実験を行った。実験結果から、実験協力者の性別と国籍には交互作用があり、実験協力者を4グループに分けて別々にかわいい感のモデルを構築する必要性のあることがわかった。
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