研究課題/領域番号 |
26280106
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松田 秀雄 大阪大学, 情報科学研究科, 教授 (50183950)
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研究分担者 |
瀬尾 茂人 大阪大学, 情報科学研究科, 助教 (30432462)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝子ネットワーク / 脂肪細胞 / 熱産生 / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
(1)脂肪細胞褐色化に関連した新規パスウェイの探索 昨年度に実施した遺伝子ネットワークの結果をもとに、褐色脂肪細胞・ベージュ脂肪細胞・白色脂肪細胞のそれぞれについて、寒冷刺激により熱産生の誘導や抑制に関与すると推定されるパスウェイの網羅的探索を試みた。その結果、白色脂肪細胞の遺伝子発現プロファイルや遺伝子ネットワークとの比較から熱産生誘導を抑制していると考えられるパスウェイが見つかった。連携研究者の協力のもとにマウスの生体で実験を行ったところ、従来報告されていなかった、マクロファージ由来のサイトカインIL-1βが脂肪細胞の褐色化と熱産生を抑制していることを検証でき、専門誌に論文が採択された。 (2)miRNA-mRNA間の相互作用予測 遺伝子の転写を制御する因子としてmicroRNA(以下miRNA)に着目して、miRNAのターゲットとなる遺伝子mRNAの予測を試みた。マウス個体から得られた時点数6(各時点で3検体)のRNA検体をもとに、miRNAアレイにより取得した時系列発現プロファイルをもとに、まずmiRNA-mRNA間でのみ遺伝子ネットワーク推定を行い、次にこれを事前確率として与えることでmRNA間の遺伝子ネットワークを推定するという2段階で遺伝子ネットワーク推定を実施した。その結果、脂肪細胞の褐色化に関与していると思われる新規のmiRNAをいくつか予測でき、連携研究者によりマウス生体での発現を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
寒冷刺激をかけても褐色化して熱産生能を持つベージュ脂肪細胞と褐色化しない白色脂肪細胞の違いを遺伝子ネットワーク解析により比較した結果、従来全く予想されていなかったマクロファージ由来のサイトカインIL-1βによる脂肪細胞褐色化の抑制効果が推定され、これを実際にマウス生体での実験で検証できた。この研究成果を発表した論文が学術専門誌に採択された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに実施した遺伝子ネットワーク解析では、脂肪細胞の分化転換過程での平均的な制御関係のみを解析しており、分化転換の初期や終期における制御関係の変化はとらえられていなかった。そこで、次年度は分化転換過程で取得された時系列遺伝子発現プロファイルにおいて、初期でのみ働く遺伝子群、初期から終期にかけて働く遺伝子群、終期でのみ働く遺伝子群をクラスタリング等の分類手法により抽出し、それぞれ遺伝子群ごとに遺伝子間の制御関係を解析する。また、miRNAについても同様の解析を行う。 次に、上記の解析の結果得られる個々の時期での時期特異的なネットワークについて、それぞれで共通する遺伝子およびmiRNAを軸に重ね合わせることで、初期から終期にかけて段階的に変化する全体的なネットワークを求める。さらに、この全体ネットワークに対して、分化転換の各時期を通した時系列遺伝子発現プロファイルを重ね合わせることで、分化転換過程での制御関係とそれによる発現変化を表現する数理モデルを構築し、脂肪細胞が蓄積した脂肪を分解し熱エネルギーとして消費する分化転換過程を進める上で鍵となる重要な因子を解明する。 以上の予測結果は、連携研究者の協力のもとに、マウスを使って実験的に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究の実施過程において、当初想定されていなかった脂肪細胞の褐色化に対する免疫系細胞由来のサイトカインの関与が示唆されたため、この解析と実験的検証に集中的に取り組んだ。結果として、当初予定していた研究補助の人件費や謝金等の経費の執行を次年度に回すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
脂肪細胞の褐色化に関与するパスウェイの網羅的探索と新規miRNAの推定およびターゲット遺伝子予測を本年度に引き続き行うため、そのための研究補助の経費および研究情報の収集や成果発表のための旅費等に使用する。
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