研究実績の概要 |
研究開始当初における最終年度(平成28年度)の研究計画は、ここまでの研究成果を踏まえ、「遺伝子特異的に制御可能なエピジェネティック治療法を探索する」こととなっていた。研究を進めていく中で、エピジェネティック因子Ezh2の核輸送を制御することにより、がん治療薬の開発へつなげることを具体的な最終目的に設定した。しかし、Ezh2の構造的な知見はこれまで非常に乏しく、平成27年10月になってようやく、好熱性真菌Chaetomium thermophilum由来のEzh2全体構造が発表され、28年4月にヒト由来Ezh2の全体立体構造が発表された。さらに、発表されたヒト由来Ezh2の構造において、我々(名古屋市立大・近藤豊教授との共同研究)が同定した核移行シグナルNLS領域の座標情報が欠落していた。そのため、Ezh2の核輸送を直接制御する化合物を本事業終了までに設計・開発することは、困難であると判断した。そこで、今回、PRC2複合体(正確にはEZh2, Eed, Suz12の一部から構成される3者複合体)の結晶構造を基に、複合体の形成を阻害するペプチド化合物を設計・合成した。現在、この化合物の有効性、すなわちH3K27me3活性阻害作用、リンパ腫への治療効果などについて、評価・検討を行っている段階である。 28年度は、この他にも、インポーチンα2遺伝子をノックダウンしたES細胞のマイクロアレイの解析および遺伝子パスウェイ解析をさらに進め、疾患、細胞増殖、生殖などに関連する興味深い遺伝子を特定した。さらに、核輸送過程における積荷蛋白質のリリース機構に関する仮説の検証を、共同研究者の日本大学・安原准教授と共に進めることもできた。
|