本年度(平成29年度)の予定は,1.「さらなる応用対象に「妨害による支援」を展開」の研究項目を継続することと,2.研究全体の総括であった. 第1の項目に関し,第2外国語学習におけるスピーキングの学習支援システムに関する研究を実施した.提案手法の最大の特徴は,異なる2つの言語の同時学習を可能とする点である.たとえば,1つの会話の中で,日本語母語話者が英語を話し,英語母語話者が日本語を話すことにより,同時に日本語と英語のスピーキング学習を行う.このような第2言語の同時学習を可能とするために,通常の会話における円滑な話者交替を妨げ,各話者による発話が完全に終了するまで発話権を取得できない,厳密な話者交替を強いるシステムを構築した.このシステムを用いたユーザスタディを実施した結果,提案手法によってスピーキング能力がよりよく向上することが明らかになった. この他,第1の項目に関し,さらに2つの研究を実施した.1つめは,会議において発言数が少ない参加者に対し,ゆるやかな妨害的指示を与えることで発言を促すシステムの研究開発である.2つめは,オーケストラなどの楽団員が集団の中で個人練習を行う際に,自分の演奏音を他者に聞かれることを個別に妨害することにより,効率的な個人練習を可能とするシステムの研究開発である.いずれについても,ユーザスタディを実施して,それぞれの有用性を確認した. 第2の項目に関し,本研究で開発した,字形が誤った漢字をあえて出力し,これを訂正することを強いることによって漢字学習を支援する新奇なかな漢字変換システムを一般に公開し,誰でも利用できるようにした.また,研究全体の内容をまとめたものを,書籍「不便益: 手間をかけるシステムのデザイン」の「第9章 妨害による支援」として公開した.
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