研究課題
陸域生態系における炭素収支が地球環境変化に及ぼす影響が強い関心を集めている。陸域生態系において,二酸化炭素(CO2)の収支はかなり解明されてきたが,CO2より温室効果の強いメタン(CH4)については,その放出と吸収が生態系内で同時に生じるため観測による把握が困難であり,対象とする生態系自体が不均一で多様性に富むことからから,その動態解明は不十分である。このため,地球温暖化の関連研究分野の中で,全球的なCH4 収支の広域的評価とCH4収支にかかわるメカニズムの解明が要請されており,モデル研究の分野からは緊急な対応を迫られている。2015年度はAlaska大学キャンパス内の永久凍土地域を対象に設定されているクロトウヒ植生で,メタンの発生や放出を融雪時の4月下旬から凍土が再凍結する10月下旬まで渦相関法を適用して生態系スケールで観測した。メタンフラックスに加えて,CO2収支,微気象など,広域評価やモデル構築に必要な要素を連続観測した。観測には代表研究者並びに分担研究者が現地滞在したほか,大阪府立大学の大学院生も長期滞在して,測器類の点検と保守を行い,エラーやノイズの少ないデータを可能な限り連続的に確保することに努めた。現地滞在時には,凍土融解層の深さ,LAI,植生高度などの生態情報のグランドツルース計測を随時行った。これまでに蓄積されたデータの品質制御(QC,Quality-Control)を行い,その効率化を図った。さらに,既存データについて水蒸気補正の必要性を明らかにし追加解析を実施すると共に,水蒸気補正に関する内容を学術誌に投稿し論文掲載された。一部の解析結果を分担研究者が研究論文としてとりまとめ国際誌に掲載された。日本国内のみならずアメリカを初めとする海外のモデル研究者からデータ提供の申込があり,QC済みの提供可能なデータについては条件付きで提供し始めている。
2: おおむね順調に進展している
Alaska大学に常駐するフラックス観測関係の研究者がいなくなったことで,長期連続観測態勢を維持するのに苦労したが,2015年6月の観測におけるトラブルと欠測を極小化できたこと,また,国際北極圏研究センター(IARC) との相互協力体制の元,大阪府立大学の院生が長期滞在して測定機器の保守管理を実施できた事などにより,データを順調に蓄積できた。これまでのデータ蓄積をとりまとめて論文化したが,その過程でデータの品質チェックを一部ルーチン化できたので,データベース構築時のデータの品質制御(Quality-Control)をより効率的に実施できるようになった。さらに,CH4 フラックス評価における水蒸気補正の必要性,並びに具体的な補正手法を学術論文として提示できた。海外のモデル研究者たちから寄せられる観測データの提供に条件付きながら応じる体制ができ,一部提供を始めた。
データベースの構築とその内容充実のために,これまでのAlaskaにおける観測研究を継続する。科研費で実施中のAlaska大学構内のメタンフラックス観測研究は国際北極圏研究センター(IARC) との研究協力体制で支援されているが,文部科学省の補助事業,北極域研究推進プロジェクト(ArCS: Arctic Challenge for Sustainability 2015-2019) Theme 3: 北極気候にかかわる大気物質,Short-Lived Climate Pollutants (SLCPs) and Long-Lived Greenhouse Gases (LLGGs) in the Arctic Atmosphereの小課題としても支援を受けられることになり,2016年度以降,名古屋大学から特任助教が長期滞在できる見通しである。このため,2015年度以上に充実した観測ができるように本科研費projectでも大学院生の派遣などに努める計画である。最終年度であることから,蓄積データの追加などデータベース化をさらに進めるとともに,これまでの知見(補正方法の改善)などを反映させたデータの品質の向上を図る。
Alaska大学構内の観測サイトにおける長期連続データの確保が最優先の研究課題であるので,現地に長期滞在して高品質のデータを確保する必要がある。現地滞在のために2016年度も多額の渡航旅費が見込まれた。しかし,2016年度の当初予算は200万円とこれまでの2年間に比べて少ない。過去2年間と同程度の渡航費用を確保するために,2015年度の物品購入をできるだけ減らし(他の研究費から充当),2016年度に使える旅費として次年度使用額を残した。
代表研究者,分担研究者,院生などの渡航,滞在旅費として使う。長期にわたる連続観測のため,測器やセンサーの劣化が進んでいる。これらの修理や更新にあてる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Agric. Forest Meteorol,
巻: 222 ページ: 98-111.
doi:10.1016/j.agrformet.2016.03.007
Remote Sensing Environment
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.rse.2016.02.020
Agricultural and Forest Meteorology
巻: 214-215 ページ: 157-168
10.1016/j.agrformet.2015.08.252
巻: 214-215 ページ: 80-90
10.1016/j.agrformet.2015.08.247
http://www4.iarc.uaf.edu:8080/uaf-north-campus/
http://atmenv.envi.osakafu-u.ac.jp/data/uaf_data/