研究課題/領域番号 |
26281014
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
伊藤 昭彦 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主任研究員 (70344273)
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研究分担者 |
伊藤 素子 茨城大学, 農学部, 研究員 (90419896) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生態系サービス / 気候変動 / 土地利用変化 / 農業活動 / 温室効果ガス |
研究実績の概要 |
長期シミュレーションを実施するためのデータ整備と生態系モデルのコード改変を進めた。従来の生態系モデル(VISIT)コードでは200年程度までの計算期間を想定しており最長期間が固定されていた。今年度、計算の開始年と終了年を任意に設定できるよう改変を行い、数百年以上の計算に対応可能なようにした。試行として国際モデル相互比較実験であるISI-MIPで使用されている過去の長期計算用データを用いて600年以上の全球計算を行い動作確認を行った。ここでは複数の気候シナリオを用いて気候変動パスの違いが、生態系機能に与える影響が妥当に再現されることを確認し、その一部は論文発表を行った。本研究で使用する入力用データ整備としては、昨年度に引き続きTraCE-21Kプロジェクトによる気候モデルによる最終氷期以降のシミュレーションデータの変換作業を進めた。気候モデルの空間分解能は数百kmと粗いため、生態系モデルに合わせるよう線形内挿を行った。土地被覆データはHYDEデータの変換作業を進めた。このデータは農耕開始以来12000年間の耕作地分布を与えるが、時間間隔が100年以上と広く一定していないため時間内挿作業を行った。前年度からの懸案事項であった植生分布の変化に関しては、植生動態を表現するモデル利用に関する検討を進めた。本研究で主対象とする過去の長期変動を再現するには、植生動態を適度に簡略化して扱う必要があり、そのための計算節約を工夫した植生モデルの試作を進めた。また、農業活動については窒素肥料投入量を表すデータセットの高度化を行い、それが温室効果ガス放出量に与える影響を検討した。その一部は、陸域の一酸化二窒素収支に関する国際モデル相互比較プロジェクトへの参加を通じて行われた。本研究で使用する陸域生態系モデルにより、過去の一酸化二窒素放出量分布が全球スケールで妥当に再現されていることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
長期計算に対応した生態系モデルコードの改変は予定通りに行われ、その一部は新しく始まった国際モデル相互比較プロジェクトに対応した計算でも活用されたため、その部分は予想以上の成果となった。生態系サービス評価や人為影響に関する研究動向に関する情報収集も前年度に引き続き着実に実施した。一方、平成28年度の途中に研究分担者が異動し、実施予定であった入力データ整備作業の一部が大幅に遅れることとなった。そのため、研究期間終了時までに実行するはずであった最終氷期から現在までの連続シミュレーションは翌年度に実施することが必要となった。前年度から実施してきた生態系モデル長期計算の検証材料となる樹木年輪データの検討は順調に進み、学術誌に投稿できる水準までのとりまとめが行われた(平成29年度中に投稿予定)。
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今後の研究の推進方策 |
研究分担者の異動に伴うデータ整備の遅れを取り戻すよう、研究補助員を雇用して入力データの整備と検証を進める。長期データの処理には多くの計算機資源が必要になるため、ワークステーションでの計算時間を優先的に割り当て、データ保存用磁気ディスクを多めに用意するなど実務的な作業を遅滞なく進められるよう技術的問題にも対応する。生態系モデルのコード改変作業は一段落したが、長期計算を行う上で重要になる点として、更なる計算効率化の余地があると考えられ、構造の最適化やアルゴリズムの改良を行う。全期間を通じた長期計算だけでなく、特に重要な一部期間を取り出して重点的に計算と解析を行うことが有効であることが分かってきた。特にモデル相互比較の対象となる期間については、提供される入力データを使用した場合との比較が可能であり、推定不確実性を加味することが可能となる。また近年、生態系サービス評価の重要性が強調されており、特にIPBESなどの国際的動向に応えられるよう、出力項目や解析項目について見直しを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度途中に分担研究者が異動し当初計画していた作業が行えず、分担金も返還された。それに伴い長期積分シミュレーションの実施が延期されたため、それを担当する補助員の人件費として持ち越されることとなった。また、成果の研究発表に使用する予定であった旅費や学会参加費についても次年度に使用する必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
長期積分シミュレーションの入力データ整備を完了すべく研究補助員を雇用し、気候条件と土地利用についてモデルに対応したフォーマットでのデータ変換を行う。その成果を国際学会で発表し、長期的な人間活動に伴う陸域生態系の構造と機能の変化に関する議論を行う。昨年度からとりまとめを進めてきた陸域生態系モデルの検証に関する論文を学術誌に投稿し、そのための英文校閲や掲載料(オープンジャーナルで必要な場合)に使用する。
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