研究課題
北極振動は、北極付近を中心に極域から日本を含む中高緯度域の気候系を支配する重要な変動モードである。本研究では、太陽放射強度の黒点周期変動及び数百年スケールの変動が中高緯度域に与える影響とそのメカニズムを北極振動という観点から明らかにする。その目的のため、平成27年度は下記の項目について研究を行った。1、気象再解析データを用いた解析により成層圏から対流圏に伝播する太陽活動の影響に関する解析を行った。この結果、北半球では北極振動の変調を通して太陽活動の変化が対流圏に伝わるが、南半球では北極振動の対応物である南極振動ではない別の大気モードをとおして、上部成層圏から対流圏に影響が伝わっていることが見出された。2、気象庁作成の海洋データを用いて太陽活動指数(F10.7)を元にしたラグ回帰解析を行い、太陽活動に対し気候での信号の現れ方を調べた。海面水温(SST)で見ると北大西洋では、北大西洋振動(NAO)的な信号がラグ2年(太陽活動ピークの2年後)頃をピークとして現れること、北太平洋ではラグ4年頃をピークとした太平洋10年振動(PDO)的信号として現れることが分かった。また冬季(DJF)の時間深度断面で見ると、信号が時間と共に深層に伝搬していて500m深度と表層で2年程度のラグが存在していた。例えば北大西洋40N信号(NAO中心信号)では、300m深度で太陽活動のピークに対し2-3年遅れて正偏差のピークが現れることが分かった。3、太陽放射スペクトル及び太陽風などによって大気上層へ到達する太陽プロトン粒子などの想定された時間変化を与えて地球システムモデルの長期積分を世界各国のモデルが参加する相互比較プロジェクト「化学気候モデルイニシアチブ」の枠組みで実施した。また実験結果について、大気上層の微量気体観測データや気温の観測データなどを用いて基礎的な検証を実施した。
2: おおむね順調に進展している
スーパーコンピュータが込み合っていて数値モデルの計算の進みが多少遅れていること以外、計画は概ね予定通りに進捗している。
平成28年度は、以下の項目について研究を推進する予定である。1、観測データおよび再解析データを用いて、太陽活動指数に関する解析を引き続き実行することにより、観測データ解析的視点から太陽活動に伴う信号がどこからどのように生じているのかを明らかにする。2、太陽活動の中高緯度の循環に与える影響に関するプロセスを明らかにする為に太陽活動の影響による北極振動の変調とその対流圏内での増幅機構について解析を行う。3、オゾン過程を含めた過去千年実験を継続し、またCMIP6の太陽変動関連実験を実行する。4、観測データと各種数値モデルのランの太陽活動による解析を複合的に比較することにより、太陽活動の北極振動に与える影響についてとりまとめを行う。
平成27年度に予定していた海外出張を都合により取りやめたこと及び論文投稿が遅れたため関係の諸費用を繰り越す必要が出たためである。
モデルの新規実験等によって増大するデータを収納する磁気ディスク装置の増設、及び出張費や投稿予定の論文の校正費用等に充てる予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 12件、 招待講演 2件)
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