研究課題/領域番号 |
26281019
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
長島 佳菜 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 技術研究員 (90426289)
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研究分担者 |
東 久美子 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (80202620)
西戸 裕嗣 岡山理科大学, 生物地球学部, 教授 (30140487)
原 由香里 九州大学, 応用力学研究所, 助教 (30462493)
鹿山 雅裕 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 特別研究員(PD) (30634068)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ダスト / 気候変動 / 高時間解像度 / 地球化学 / 湖年縞堆積物 / 雪氷コア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、季節毎の分析が可能な日本の湖年縞堆積物と、カナダやグリーンランドで採取された雪氷コアを用いて、アジアダストの沈積量とその供給源を季節毎に過去100 年間にわたり復元し、1.アジアダスト長距離輸送の季節性(どの季節にどこで発生したダストがどれだけ輸送されるのか)、2.ダスト供給源からの距離に応じた年間ダスト沈積量とその経年変化を明らかにし、さらにモデルを用いてその原因を解明することにある。平成27年度の大きな成果は、福井県・水月湖における過去100年のダスト沈積フラックスの変動(1920年以降の緩やかな減少傾向、およびそれに加えて起こる数十年スケールの増減)の原因を、ヨーロッパ中期気象予報センター(ECMWF)が提供する20世紀の再解析データ等を用いて解析した大気場の変動から明らかにした事である。すなわち、ゆるやかな減少傾向は、モンゴルの温暖化に伴う可能性が高く、数十年スケールの変動は、アリューシャン低気圧の強さの変動に伴う偏西風主軸の南北振動によって、ダストの輸送経路が南北に振動することが主な原因である可能性を指摘した(Nagashima et al., 2016, GRL)。この結果は、アジアダストによる人々への健康被害や、大気組成への影響、北太平洋の生物基礎生産への影響を評価する上で、また将来的なダストの地球環境へのインパクトを推定する上で、重要な知見となる。 一方、雪氷コアのCa2+分析からも、ダスト沈積量の数十年スケール変動が明らかになりつつある。こうした結果を受け、最終年度である平成28年度は、数十年スケールでのダスト沈積量変動が本当に偏西風経路の南北振動に伴うものであるのか、開発中の領域化学輸送モデルを用いたダスト輸送再現実験から明らかにし、更に数十年スケール変動がダスト輸送の季節性とどのように関係しているのか、コア分析およびモデル解析両面から明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では①湖年縞堆積物の分析、②雪氷コアの分析、③モデル解析、の3テーマを基に研究を進めており、計画の修正が必要なテーマがあるものの、おおむね順調に進展している。以下、それぞれの進捗状況を記す。 ①水月湖・湖底堆積物の分析は順調に進展しており、これまでに過去100年のダスト沈積フラックスの復元および供給源の推定(主に長石タイプに基づく)を行った。樹脂で固めた水月湖堆積物のCL分析に着手し、平成28年度も引き続きダスト供給源の季節変動の復元を行う。一方、一の目潟・湖底堆積物は、湖周辺域から供給されるダスト以外の砕屑物の寄与が多く、ダストの含有量が非常に低いことが明らかになった。そこで、時間解像度を下げ、経年変動の検証を中心に分析を進めている。 ②雪氷コア研究は、カナダMount LoganコアのCa2+濃度の分析を多数行い、当初の予定通りデータが出ている。一方、Ca2+濃度と雪氷コア中の粒子数との関係式を作るための、粒子数の測定も引き続き進めている。雪氷コア中の石英は個数が少なく、また粒径が小さいため、CL分析が当初の予定よりも遅れている。そこで、過去100年全てについて季節毎の解像度で分析を行うのではなく、Ca2+濃度分析結果から示唆されたダスト輸送量の多い年、少ない年を選択し、これらの年についてCL分析を行うよう計画を変更し、進めている。 ③領域化学輸送モデル(WRF-chem)については、幾つかの過去の大規模なダストイベント時の再現が可能であるか検証を行っている段階である。こうしたモデルを用いた再現実験と並行して、ECMWFが提供する再解析データを用いた過去100年のダスト輸送に関わる気象場の詳細な解析を行い、ダスト沈積フラックス変動の原因についての検証を行った。目的達成に向け、順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
アジアダストの長距離輸送の季節性と経年変化を過去100年に渡って明らかにすることが本研究の主な目的である。湖堆積物、雪氷コア、再解析データから、ダスト輸送の過去100年の変動が明らかになる一方で、その季節性の解明に向けては、現在データ取得の途上にある。雪氷コア中の石英は、濃度が低く粒径が小さいため、石英粒子のデータ取得に当初の予定よりも時間がかかることが分かった。そこで雪氷コアについては、粒子の濃度が比較的高いカナダのMount Logan, King Colコアの試料を主なターゲットとし、濃度が低い層については前後の試料を合わせ、季節性の検証を行える範囲内で時間解像度を下げ、ダストの供給源推定を行う。 更に、過去100年の全ての年の季節性を分析するのではなく、これまでの結果から日本におけるダストの沈積フラックスが多い年、少ない年を主なターゲットとし、それぞれの年について、湖堆積物、雪氷コア、領域化学輸送モデルを用いた集中的な分析・解析を行い、ダスト輸送量およびその季節性の特性を詳しく検証する。具体的には、水月湖堆積物を用いた分析の結果から、アリューシャン低気圧が強化する1976/1977年(いわゆる、北太平洋レジームシフト)を挟み日本におけるダスト沈積フラックスが増加する傾向が明らかになったため(Nagashima et al., 2016, GRL)、レジームシフト前後のそれぞれ数年を主な対象とし、データ取得およびモデルの再現実験を行う予定である。 平成28年度は最終年度にあたるため、実験補助員・アルバイトを積極的に雇用し、分析の効率化・迅速化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は秋田県・一の目潟周辺の陸上調査を予定していたが、既に得られていた試料を分析に用いることが出来たため、調査を行う必要がなくなった。そこでその分を研究の取りまとめのための打ち合わせ、国内外での学会発表の旅費として平成28年度に繰り越すことにした。また平成27年度は、雪氷コア中の石英粒子の数が少なく、分析試料数が当初の予定よりも減ったため、雇用人数・日数が予定よりも少なかった。平成28年度は、少ない石英粒子数を補うための各種の仕事(石英のCL測定に向けたディスク作成の補助等)を行う実験補助者を追加で雇用する必要があるため、その分の費用を繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、湖沼堆積物、雪氷コア、モデルを含めた全体の打ち合わせを数回行い、それに伴う旅費として使用する。更に、成果の積極的な発信のため、学会参加を増やし、そのための旅費としても使用する計画である。また、平成28年度が本課題の最終年度であるため、計画を滞りなく進めるために、石英のCL分析を補助するための追加の実験補助者(アルバイト)の雇用を計画している。
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