野生型生物での自然突然変異率は極めて低いので検出は容易でなく、特に哺乳動物の新規生殖細胞変異(de novo mutation; DNM)の頻度、種類、発生機構については不明な点が多い。次世代影響解析のために種々のゲノム変異を効率的に検出するシステムを構築する必要がある。そこで本研究ではミスマッチDNA修復(MMR)を欠損させたマウスの親子サンプルを利用することで変異の検出効率を上げ、一世代で誘発される種々のゲノム変異の解析を試みた。次世代シーケンサーを用いて全エクソン約50Mbをシーケンスし、両親で検出されず仔でのみ検出された変異を抽出し、さらにバリデーションを行いDNMsを同定した。その結果、野生型マウスでは一塩基置換および挿入/欠失変異は一世代で検出限界以下でしか発生しないが、今回用いたMMR欠損マウスの親子解析では多数観察された。特記すべきは、MMR不全のガンのゲノムでも観察されるマイクロサテライト配列における数ユニットの増減が高頻度に起きていた。ヒトにおけるマイクロサテライト多型の発生原因を考察する上でも重要な所見である。MMR欠損マウス親子におけるDNM率は、一塩基置換変異は野生型マウスの20倍以上、挿入/欠失変異は100倍以上であり、MMRの生殖細胞における自然突然変異の抑制おける重要性が示された。さらに親の由来別の変異頻度を確認するために、片親を野生型にして交配を行い同様の解析を行ったところ、MMR欠損親の性別間で子に伝わるDNMの数やスペクトルには大差はなく、両親ともMMR欠損マウスで得られた子での結果の約半分程度の発生頻度であった。以上の結果より、MMR欠損マウスを利用することで、データ量が全ゲノム解析に比較して少ないエクソーム解析を用いてもDNMが十分検出可能であることが示され、環境ストレスや化学物質の次世代影響評価系にも応用できると考えられた。
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