研究課題
細胞内のアセチル化状態を解析するために、p300/CBPによってアセチル化されることを同定している複数のタンパク質に関して、アセチル化部位特異的抗体を作製することができた。ヒトRAD52に関しては、このタンパク質の脱アセチル化の役割について解析を行った。RAD52は、DNA二重鎖切断(DSB)後にDSB部位でアセチル化されるが、その後、Sirt2とSirt3によって脱アセチル化されることを明らかにしていた。今年度、Sirt2あるいはSirt3をノックダウンすると、DR-GFPアッセイにより、DNA相同組換えが阻害されることを見いだした。この結果から、RAD52の脱アセチル化も相同組換えに重要であることが示唆された。さらに、Sirt2やSirt3のDSB部位への局在には、ATMキナーゼが必要であることも明らかにすることができた。一方、アポトーシス制御に関わるタンパク質のアセチル化修飾の役割を解析するために、アセチル化されるリジンをアセチル化類似変異であるグルタミンに置換したタンパク質を精製した。野生型と種々の変異型タンパク質を用いたin vitroのカスパーゼアッセイの結果、アポトーシス制御タンパク質のアセチルによって、このタンパク質のカスパーゼ3やカスパーゼ9に対する阻害活性が影響を受けることを明らかにした。さらに、酵母two-hybrid法を用いたタンパク質間相互作用の実験の結果、アセチル化修飾は、このタンパク質のダイマー形成効率やNFκBの活性化に関わるTAB1タンパク質との相互作用に影響を与えることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
目標としていた種々のアセチル化部位認識抗体を作製することができた。RAD52のアセチル化に関しては、当初、予定していなかった脱アセチル化酵素の相同組換え修復への関与を明らかにすることができた。さらに、当初予想していなかった、RAD52のアセチル化が引き起こす重要な知見を発見することができた。この予想外の発見は、次の研究課題として発展することが期待される。一方、DNA複製等に関わるタンパク質のアセチル化の役割についての解析に関しては、アセチル化部位変異体などの研究材料を作製している段階であり、やや遅れている。アポトーシス制御に関わるタンパク質については、順調にアセチル化修飾による影響を明らかにすることができた。したがって、研究全体としては、おおむね順調に進展している。
我々が同定したアセチル化されるアポトーシス制御タンパク質に関しては、このタンパク質とTAB1との相互作用についてアセチル化修飾の影響をさらに詳細に解析するために、マイクロカロリーメーターを用いて精製タンパク質間の相互作用を解析する。また、CDスペクトルによる解析によって、アセチル化修飾によるこのタンパク質の立体構造変化を解析する。次に、NFκBのルシフェラーゼアッセイによって、アセチル化修飾がNFκBの活性化に与える影響を明らかにする。さらに、アセチル化修飾が、このタンパク質の自己ユビキチン化や細胞内安定性に与える影響、オートファジーの制御機能に与える影響を明らかにする。また、アセチル化部位特異的抗体を用いて、細胞内のアセチル化状態の制御機構について調べる。最後に、DNA損傷による細胞内のアポトーシス誘導に関して、アセチル化修飾が与える影響を明らかにする。DNA複製等に関わるタンパク質のアセチル化に関しては、アセチル化修飾部位のリジンをアセチル化されないアルギニンやアセチル化類似変異のグルタミンに置換したタンパク質をテトラサイクン添加によって発現誘導できる、Tet-on細胞を作製する。この細胞を用いて、アセチル化修飾が細胞増殖等に与える影響を調べる。
抗体作製などの費用について、複数の仲介業者に見積もりをとったところ、期待していた以上に安く収まったことにより、次年度使用額が生じた。
次年度使用額については、招待講演の依頼を受けた、横浜の学会会場までの交通費として使用する。
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