研究課題/領域番号 |
26281029
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
能美 健彦 国立医薬品食品衛生研究所, 安全性生物試験研究センター, 客員研究員 (30150890)
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研究分担者 |
須井 哉 一般財団法人食品薬品安全センター秦野研究所, 代替法試験部 遺伝学研究室, 室長 (50426433)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遺伝毒性 / 閾値 / トランスリージョンDNA合成 / 環境変異原 / 発がん |
研究実績の概要 |
1.Polκノックインgpt deltaマウスを用いたベンツピレンの発がん性と遺伝毒性の検出 ベンツピレン(BP)とデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)をマウスに併用投与すると短期間に大腸に腫瘍が発生する。DNAポリメラーゼκ(Polκ)のDNAポリメラーゼ活性を不活化させたPolκノックインgpt deltaマウス(Polκ KIマウス)と対照となるgpt deltaマウスにBP(高用量、低用量)とDSSを投与し、発がん性と遺伝毒性を検討した(平成26年度実施)。Polκ KIマウスとgpt deltaマウスの間に大腸の腫瘤数に差は認められず、病理学的検索を行っても差は検出できなかった。遺伝毒性(gpt突然変異)についても、両者の間に差は認められなかった。しかし、肺のgpt突然変異頻度と骨髄の小核誘発頻度は、低用量群でPolκ KIマウスがより高い値を示し、DSS単独投与群については、大腸、肺ともにPolκ KIマウスがgpt deltaマウスよりも高い値を示した。以上の結果から、Polκ のBPに対するゲノム防護作用には臓器特異性があること、Polκ は炎症に基づく遺伝毒性に対してゲノム防護作用を示す可能性が示唆された。
2.Polκノックインおよびノックアウトヒト細胞を用いた遺伝毒性発がん物質の検出と閾値 POLK遺伝子をノックアウトしたヒト細胞株(KO細胞)と、Polκの触媒活性を特異的に不活化させたヒト細胞株(CD細胞)を用い、染色体異常を指標に、過酸化水素に対する閾値(染色体異常が検出されない最高用量)を検討した。その結果、野生型株の閾値が10μMであったのに対しKO株、CD株の閾値は5μMであった。以上の結果から、過酸化水素による酸化DNA損傷に対する閾値形成にPolκが役割を果たしている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. Polκノックインgpt deltaマウスを用いたベンツピレンの発がん性と遺伝毒性の検出 Polκ KIマウスと対照となるgpt deltaマウスにBPとDSSを併用投与し、BPの用量とDSS投与に依存して大腸に腫瘍が誘発され、gpt遺伝子突然変異も用量依存的に増加する結果が得られ、研究は順調に進捗した。Polκはin vitroではBPによるDNA損傷を誤りなく乗り越えてDNA合成を続けることから、Polκ KIマウスがgpt deltaマウスよりもBPの発がん性、遺伝毒性に対して高い感受性を示すと予想したが、大腸においては、発がん性、遺伝毒性とも感受性の差は見られなかった。しかし、骨髄と肺の低用量群においては、Polκ KIマウスがBPの遺伝毒性に高い感受性を示し、炎症を誘発するDSS単独投与群については、大腸、肺ともにPolκ KIマウスが高い遺伝毒性感受性を示した。これらはマウス個体を用いることで初めて明らかとなった知見であり、当初の予想を超える成果である。
2. Polκノックインおよびノックアウトヒト細胞を用いた遺伝毒性発がん物質の検出と閾値 平成26年度に実施したPolκ KO細胞、CD細胞を用いて多数の化学物質の致死感受性を比較する研究結果を米国環境変異ゲノミクス学会の機関誌(Environ. Mol. Mutagen., 56, 650-662, 2015) に発表した。編集長の推薦する論文に選ばれ、無料でopen access化された。平成27年度はKO細胞、CD細胞を用いて 過酸化水素の遺伝毒性とその閾値に検討を加えた。研究は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
1.Polκノックインgpt deltaマウスを用いた発がん性と遺伝毒性の検出 平成26年度からの研究を継続し、大腸および肺でのgpt突然変異のスペクトルを解析する。一方、平成26、27年度の研究からPolκ KI gpt deltaマウスがDSSの遺伝毒性に対して高い感受性を示すことが明らかになったので、Polκ KI gpt deltaマウスと対照となるgpt deltaマウスにDSSを単独投与し大腸発がん実験を行い、炎症に基づく発がん性と遺伝毒性を検討する。DSSの炎症に基づく遺伝毒性は大腸だけでなく肺、骨髄など多臓器に及ぶため、複数の臓器で遺伝毒性(gpt変異、小核形成)を検討する。またDNA付加体の分析を行う。平成28年度は、主にPolκ KI gpt deltaマウスの繁殖を進める。
3. Polκノックインおよびノックアウトヒト細胞を用いた遺伝毒性発がん物質の検出と閾値 Polκ KO細胞と、Polκの触媒活性を不活化させたCD細胞を用い、染色体異常を指標に、メナジオンに対する閾値(染色体異常が検出されない最高用量)を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、前年度に行った動物実験の解析(病理解析、遺伝毒性解析)を行ったため、マウスの繁殖などにかかる経費が不要であったため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、Polk KI gpt deltaマウスおよびgpt deltaマウスを用いてDSS単独処理による発がん実験を行うため、次年度使用額は、これらマウスの繁殖、飼育費用に充当する。
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