研究課題/領域番号 |
26281034
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研究機関 | 大阪府立公衆衛生研究所 |
研究代表者 |
大山 正幸 大阪府立公衆衛生研究所, その他部局等, 研究員 (40175253)
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研究分担者 |
東 賢一 近畿大学, 医学部, 准教授 (80469246)
竹中 規訓 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70236488)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 亜硝酸 / 特異的気道抵抗 / 喘息 / 呼吸機能 / 大気汚染 / 二酸化窒素 / 動物曝露実験 |
研究実績の概要 |
二酸化窒素(NO2)はその喘息影響により大気汚染防止法で規制されている。但し、NO2が規制された当時、大気中での存在が知られていなかった亜硝酸(HONO)が、NO2の公定法でNO2として測定されることが知られるようになり、HONOがNO2として測定した物質による喘息影響の原因の可能性がある。本研究の目的は、HONOの喘息影響を検討するため、HONOの動物曝露実験で喘息影響の指標である特異的気道抵抗などへのHONOの影響を調べることである。 平成26年度から、モルモットの特異的気道抵抗測定装置であるMIPS製PULMOSⅠとNOx計(サーモ・フィッシャー製:MODEL42i)を購入し、各群6匹のモルモットに対する7週間のHONO曝露実験(3.4, 0.7, 0.0 ppm)を2度実施し、経時的に特異的気道抵抗を測定した。その結果、HONO曝露群で曝露1週間目や4週間目以降で特異的気道抵抗が有意に増加し、かつ、一般的に特異的気道抵抗亢進時に観察される呼吸波形がHONO曝露群で観察された。 なお、Kobayashiらの報告ではNO2のモルモット曝露実験では2ppmと4ppmのNO2の12週間曝露で特異的気道抵抗の有意な増加を認めているが、6週間曝露では有意差を認めておらず、また、NO2の1ppm曝露では12週間曝露でも有意差は認められていない。従って、我々のHONO曝露実験は、HONOはNO2より低い濃度で、かつ、短期間の曝露で喘息影響を示すことを示唆する。また、HONOの4週間曝露で肺気腫様変化を観察していることから、HONOの4週間曝露以後の特異的気道抵抗亢進は肺の構造の気腫様変化に依存している可能性もあるが、HONOの1週間曝露から特異的気道抵抗の亢進した個体や呼吸波形の定性的な変化が観察された結果は、肺気腫様変化に依存しない気管支収縮に依存したものであることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定のモルモットに対するHONO曝露実験を実施し、特異的気道抵抗の有意な増亢進や呼吸波形の定性的な変化がNO2による曝露実験より低い濃度で、かつ、短期間曝露で観察され、HONOはNO2より喘息影響が強いことが示唆された。大気汚染物質の疫学調査ではNO2と喘息との関連を認めた報告は多いが、NO2濃度が高い昼間よりNO2濃度が低い夜の方が喘息発作が多いことや、朝方のNO2濃度が低い時間帯でNO2濃度と喘息患者の呼吸機能との関連が認められるものの、NO2濃度が高くなる昼間ではその関連が認められないことなど矛盾が存在している。HONOは昼間太陽光線で分解されるため、NO2として検出される値と喘息との関連がHONOが原因ならそれらの矛盾の説明が付く。 また、大気汚染物質としてNO2やオゾンが規制されているが、疫学調査ではNO2と喘息との関連を認める報告は多いものの、オゾンと喘息との関連を認める報告はそれほど多くない。しかし、動物曝露実験ではNO2とオゾンの肺への影響は類似しており、オゾンの方がNO2より1/10程度の低い濃度で肺気腫様変化が起きる矛盾がある。この矛盾についてもNO2測定値と喘息との関連はHONOが原因ならオゾンと喘息との関連が弱くても妥当であり、規制すべきはHONOである可能性が高いと考えられる。 実際にNO2やオゾンの規制が修正されるにはさらに多くのHONOに関する研究が必要だが、妥当な結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
モルモットは特異的気道抵抗への影響が出やすいが、個体差が大きい動物種である。NO2の動物曝露実験でもモルモットでは特異的気道抵抗の亢進は観察されているがラットでは有意な亢進は観察されていない。ラットに対する大気汚染物質の曝露実験で呼吸機能に有意な影響を与えた物質は亜硫酸ガスしか報告が無く、もし、ラットに対するHONO曝露実験で呼吸機能への影響が認められれば、HONOの喘息影響は亜硫酸ガスに匹敵することが示唆される。また、以前の我々のマウスに対するHONO曝露実験では、気管支上皮細胞の増生などは認めたものの、肺気腫様変化は認められなかった。モルモットとマウスでの肺組織影響の違いは、マウスは気管支平滑筋細胞や好酸球が乏しいからではないかと考察した。実際にモルモットに対するHONO曝露では、気管支平滑筋細胞が肺胞道に伸展するなど気管支平滑筋細胞の変化を認めている。従って、平成28年度はマウスより気管支平滑筋細胞が発達しているが、呼吸機能への影響が出にくいラットに対してHONO曝露実験を実施し、呼吸機能を測定する計画である。なお、モルモットのHONO曝露実験結果を日本薬学会で発表したところ、東京理科大学薬学部の応用薬理学教室の磯濱洋一郎教授に関心を示していただき、IL8などの炎症マーカーやグルタチオンパーオキシダーゼなどの抗酸化酵素などの測定を分担していただくことになり、HONOの生体影響の機序についても検討することになった。
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次年度使用額が生じた理由 |
直接経費次年度使用額(H27)は31,335円であり、助成金直接経費(5,000,000円)の1%未満である。各年度の直接経費(助成金と補助金の合計額)を完全に使い切る作業の省略のため、次年度使用額を残して平成27年度の予算執行を終了した。
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次年度使用額の使用計画 |
元々の翌年度実験計画であるラットに対するHONO曝露の呼吸機能の影響調査実験に、翌年度研究費と次年度使用額を使用する。
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