研究課題
集積嫌気性微生物群のヒューミン依存性ペンタクロロフェノール脱塩素活性を指標にして、固体腐植様物質の細胞外電子伝達能を調べた。腐植生成の一つの反応であるグルコースとアミノ酸を出発物質とするメラノイジン反応生成物には細胞外電子伝達能は観察されなかった。一方、生体内の各種酸化還元酵素の活性中心に含まれる有機金属複合体に注目し、野外で起こる腐植生成反応のモデルとして各種金属(硫酸鉄(2+)、塩化鉄(3+)、硫酸マグネシウム(2+)、塩化マンガン(2+)硫酸コバルト(2+)、硫酸ニッケル(2+)、硫酸銅(2+)、硫酸亜鉛(2+))と水溶性腐植酸(アルドリッチ腐植酸から調製)を反応させて金属―腐植酸複合体として沈殿させ、その沈殿の細胞外電子伝達能を調べた所、鉄―腐植酸複合体に加えて、金属―腐植酸複合体に弱い細胞外電子伝達能力が観察された。その他の金属―腐植酸複合体には観察されなかった。もともとの水溶性腐植酸にはペンタクロロフェノール脱塩素活性を維持する能力が無い事から、ペンタクロロフェノール脱塩素活性に必要な細胞外電子伝達に対して、一部の金属イオンと水溶性腐植酸の複合体生成反応が、細胞外電子伝達獲得の経路であることが示唆された。X線吸収微細構造解析を用いて、金属-腐植酸複合体における金属の電子状態の酸化還元状態の変化の有無を明らかにした。また、微生物由来の細胞外電子伝達性固体腐植物質の生成過程の探索のために、その凍結乾燥物が細胞外電子伝達能を示した微生物を大量培養して準備を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、細胞外電子伝達能を有する固体腐植物質の生成過程を明らかにすることを目的としている。研究2年目である平成27年度の研究では、一部の金属イオンと水溶性腐植酸の反応によって沈殿生成する金属―腐植酸複合体が、ヒューミン依存性ペンタクロロフェノール脱塩素微生物群が必要とする細胞外電子伝達物質としての能力を弱いながらも観察された。水溶性腐植酸自体にはヒューミン依存性ペンタクロロフェノール脱塩素微生物群を維持する細胞外電子伝達能は有しないことから、金属―腐植酸複合体生成が細胞外電子伝達能力を獲得する一つの経路であることが示唆された。このことから、おおむね順調に研究計画を進めることが出来ていると判断した。
平成27年度の研究成果から、水溶性腐植酸が生成された後の細胞外電子伝達能の活性化に関して、金属-腐植酸複合体の生成という一つの経路が明らかになった。最終年度となる平成28年度では、残された課題である単一物質からの細胞外電子伝達能を持つ固体腐植物質の生成過程を中心に研究を進める計画である。1)生体成分である細胞内電子伝達物質ポルフィノイド、フェナジン、フラビン等(ヒューミン依存性ペンタクロロフェノール脱塩素微生物群に対して細胞外電子伝達物質として働かない)が、生物遺体の分解・縮合反応プロセスに伴って腐植物質へと変換され細胞外電子伝達物質となる過程の解明を行う。微生物バイオマスを出発点として、人工土壌とともに培養して活性が獲得される過程を調べる。2)元もと細胞外電子伝達物質ではないが、植物由来の共役2重結合を持つテルペン類や炭に見られる多環芳香族化合物等、またポリフェノール類を出発物質として細胞外電子伝達物質のde novo合成の有無を1)と同様の培養試験によって明らかにする。3)平成27年度に得られた金属―腐植酸複合体に加えて、平成28年度に得られた金属腐植酸複合体の酸化還元容量およびポテンシャルを明らかにして、細胞外電子伝達物質として機能する酸化還元中心の特性を評価する。以上の成果をまとめ、環境上汚染対策として重要な嫌気性微生物の芳香族塩素化合物の脱塩素反応および硝酸イオンの還元反応を指標にし、固体腐植物質の細胞外電子伝達能を獲得・消失する過程を解明する
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