1)調査対象の拡大:これまで調査を行ってきた山岳地域に加え、積雪量や気候条件を考えて特殊な条件にある地域の山岳を選び、調査対象として新たに加えた。 2)空中写真による計測:新たに調査地として選定した産学の空中写真の外部標定を行うとともに解析を行い、高木限界の移動速度を測定した。 3)現地調査:新たに調査地として加えた山岳での現地調査を行い、写真計測の結果を検証した。 4)モデルの完成と予測:昨年までに作成した分布モデルに、新たなデータを加えてモデルを完成させた。それに、気候変動予測シナリオを当てはめ、将来の高木限界の移動を予測した。また、過去30年間の予測速度と写真による予測速度とのかい離を明らかに、その要因を議論した。 5)結果:気候変化シナリオをもとに予測した将来の高木限界は、1980年代から現在まででも大きく高山帯の気候域はすでに減少していること、さらにRCP2.6であっても、100年後にはほとんどの高山帯が消失する気候条件になることが分かった。一方、過去30年間の高木限界の分布移動速度は、標高にして3.3m/yrと推定された。この速度は、この期間の実際の温度上昇速度から予想される移動速度の1/5から1/10程度であり、かなり遅い。植物の成長、繁殖、分布拡大には気候変動速度と大きなギャップがあることが分かった。高木限界の移動速度と環境条件の分析からは、温度条件のほかに、積雪条件や地形などが関係していることが分かり、今後の適応策にも示唆が得られた。
|