本年度は、環境配慮行動の意図形成に関して、(1)心理的距離が認知対象に関する解釈の度合に影響を与えるとする解釈レベル理論の援用可能性を検討するため、生物多様性をキーワードとした意識調査を実施した。また、(2)意図形成が目標意図と行動意図の2段階の過程を経るとする2段階モデルの有用性を確認するため、沖縄県のサトウキビ農家の土壌流出対策に関する予備的な調査を実施した。さらには、(3)中国を対象として自然公園における生態系サービスの経済的評価、および意識調査を実施した。 その結果、(1)については、人々の生物多様性に対する心理的距離は大きく、生物多様性保全を望ましさの高レベルで評価していることが明らかとなった。このことから保全行動を実践するためには実行可能性の視点を持つ低レベルでの解釈を促す環境情報提供の必要性が示唆された。(2)については、土壌流出対策等の環境配慮行動を行うことの目標意図の形成は見られるが、行動実践をもたらす行動意図の形成については、土壌流出対策行動に関係する費用便益評価が行動意図形成を阻害していることが示唆された。(3)については、中国では国外でのエコツーリズムの経験豊富な人々が多く、入域料徴収などの生態系サービスへの支払いと観光施設整備、湿地再生への価値付けが確認された。このことより、生態系サービスへの支払いと生態系保全制度との連携を図る制度設計の必要性が示唆された。また、自然観賞旅行の志向、開発重視、自然保護重視など、人々の選好の多様性が確認され、保全計画とその制度設計において、こうした選好の多様性を考慮した合意形成過程を経ることの重要性が示唆された。
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