本研究は大別して「造形的構造技術」と「表面的装飾技術」について研究を進めている。本年度は前者について、昨年度から継続して「①屋外暴露環境での乾漆の風化特性の観察」を通じて乾漆の屋外での実用強度耐用期間の見極めを行った。また後者については「②ロボットアームによる漆の刷毛塗り技術の開発」を行った。①について強度試験結果から、約1年にわたり紫外線劣化の影響を受けた乾漆でも、最大圧縮力に大きな変動は見られなかった。一方で剛性は同期間で約4割減少した。乾漆自体の耐圧縮力に大きな変化はないが、乾漆は壊れやすい状態に変化した。同量の強度を与えた際の、破壊に至るまでの構造材料の耐久力が弱くなったと言える。これは構造材料として致命的である。しかし、約1年経過した乾漆の強度は、圧縮応力度、引張応力度、剛性ともに、甲種構造材のベイマツの強度と近似している。一般構造材の強度としては問題ない値であると言える。乾漆の堅牢さと軽さを活かし、乾漆を構造材料として屋外で使用することは十分に可能であると考える。また、約1年で剛性が半分の値になることから、連続使用期間の目安として、本研究では約1年を屋外での乾漆の実用強度耐用期間と考える。②について市販の6軸汎用ロボットアームを用いてA4サイズ程度の面積の漆の刷毛塗りを試行した。本試行では、ロボットアームの動作に対して漆塗りの職人に監修を依頼し、試行のその場で指摘を反映しつつパラメータの調整を行い、動作精度を高めていった。本試行は端緒的な取り組みであり、現状では作業品質において実用にはほど遠いが、伝統的な道具を活かしつつデジタル技術を用いるひとつのモデルを示した。
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