研究実績の概要 |
衣服の美観や機能を保つために, 汚れが付着しにくく, 付着した汚れが洗濯により除去されやすい機能が望まれている. これを実現するための加工が防汚加工であり, 着用中の汚れ付着を抑えるSG (Soil Guard) 加工, 洗濯による汚れ除去を促進するSR(Soil Release) 加工などが開発されている. 通常, 防汚加工は加工剤を用いて行われており, SG性は繊維表面の撥水撥油化, SR性は親水化により付与される. しかしながら, 加工剤の使用は廃液や繊維の強度低下など問題となることが多い.そこで本研究では大気中での処理が可能なプラズマジェットにより防汚性付与を試みた. 処理に関する基本的情報を得るために,幾何学的に簡単なセルロースおよびPETフィルムを用いて,プラズマ酸化処理およびヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を前駆体として用いたプラズマコーティング処理を行った. 処理前後のフィルムに対する液状汚れと粒子汚れの付着性, および洗浄による粒子汚れの脱離性を顕微鏡画像解析により調べた結果,いずれのフィルムでもプラズマコーティング処理により液状および粒子汚れのSG性が,プラズマ酸化処理により粒子汚れのSR性がそれぞれ向上することが確認された. 比較のため, PEG系親水化剤およびフッ素系撥水撥油化剤を用いて処理したところ,SG性,SR性ともにプラズマ処理に較べて劣り, とくにフッ素系撥水撥油化剤で処理をした場合は顕著なSG性の低下が起こることがわかった. 綿布およびポリエステル布を用いた実用防汚試験でもプラズマ処理の効果が認められる結果となり, 汎用加工剤と較べて防汚効果が高いことがわかった. とくに, プラズマコーティング処理では, SG性が向上する一方で,懸念されるSR性の低下が小さかった. テキスタイルの防汚加工へのプラズマ処理の利用が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繊維材料のモデルとなるセルロースおよびポリエチレンテレフタレートの2種の高分子フィルムを試料として、大気圧プラズマ表面改質によるフィルム表面の形態的・化学的変化を表面分析により明らかにした。さらに、防汚性能への影響に関する基礎データとして、汚れの付着性や水系洗浄による脱離性を調べ、汎用加工剤と比べて高い性能を持つことを確認している。 さらに, 汎用衣服材料である綿布とポリエステル布を用いて実験を行い、大気圧プラズマ処理による変化がフィルムで得られた結果と概ね同様の傾向をもつことを確認し、テキスタイルの防汚加工への大気圧プラズマジェット利用の実現可能性を示している. これらの成果について7回の学会発表を行い, さらに, 3つの論文にまとめ, すでに掲載または掲載が決定している. また, 防汚加工に関して収集した情報を用いて, 学術雑誌に総説を掲載している.
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