研究課題/領域番号 |
26282017
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
松川 真吾 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (30293096)
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研究分担者 |
福岡 美香 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (10240318)
鈴木 徹 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (50206504)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 混合多糖ゲル / ミクロ相分離 / 磁場勾配NMR / 拡散係数測定 / マイクロMRI / 光ピンセット / 粘弾性 / マイクロDSC |
研究実績の概要 |
マスター溶液の作成; 共同研究推進に必要な共通試料となるι-カラギーナンとκ-カラギーナンのマスター溶液を作成した。透析操作によりほとんどのカチオンをNaイオンに置換することが出来た。また、透析、加熱殺菌などによる分子量分布の変化はなかった。 磁場勾配NMR測定; プローブ高分子の拡散係数からミクロ相分離構造を評価するために、ι/κ-混合カラギーナンゲル中におけるポリエチレングリコール(PEO)の拡散係数を拡散時間10ミリ秒として測定した。各成分のゲル化温度における網目構造の変化に対応したPEOの拡散係数の変化は見られたが、ミクロ相分離構造を反映した拡散挙動は見られなかった。 顕微鏡による相分離構造観察; 顕微鏡による混合カラギーナンゲルのミクロ相分離構造の観察を試みたところ、NaClの濃度を160mMまで上げた時に分離構造が見られたが、低い濃度においては見られなかった。粘弾性測定とDSC測定においては、NaCl濃度が低い場合でも、それぞれのカラギーナン鎖が別々に凝集する挙動が見られ、ミクロ相分離が示唆されたが、顕微鏡観察でそれを捉えられなかった。これは相分離のサイズが顕微鏡観察の限界以下であるか、または、ιリッチ相とκリッチ相の光学的なコントラストが低いためである。また、高いNaCl濃度においてミクロ相分離が観察できたのは、相分離サイズが大きくなったか、コントラストが大きくなったからであると考えられる。 次に、試料に0.3μmのラテックス粒子を分散させ、レーザー光ピンセットによって力を加え、その動きからミクロ相分離構造を解析する方法を試みたが、ゲル試料中ではラテックス粒子を光ピンセットによる小さな力によって動かすことが出来なかった。 マイクロMRIによる観察; 撮像時の振動等による画像のブレを補正するプログラムを作成してシミュレーションによるコントラスト向上効果の確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マスター溶液の作成;初年度で準備すべき共通試料のレトルトパウチは当初の計画通り前半2年間の検討に必要な数を調製することができた。また、同様の調製方法によって後半2年間の検討用の共通試料の調製も同様の方法で問題なく作成できることがわかった。 磁場勾配NMR測定;2%ι/κ-混合カラギーナンゲルに添加した0.1%のポリエチレングリコール(PEO)に帰属されるピークを他の多糖由来のピークから分離して解析に用いることができた。また、拡散時間を10msとした時には最大12T/mの磁場勾配を印加することで10-11m2/sのオーダーの拡散係数測定を行う事ができた。この方法により、さらに分子量の大きなPEGをプローブとして用いた場合の拡散挙動の観察も可能であることがわかった。 粘弾性と熱測定;カラギーナン濃度、KCl濃度及びNaCl濃度を幅広く変えたι-タイプ、κ-タイプおよび混合カラギーナンゲルについて動的粘弾性測定とマイクロDSC測定を行った結果から、混合カラギーナン溶液においては、それぞれのカラギーナン鎖がそれぞれの単独溶液中と同じ温度において別々に凝集することが明らかにできた。 顕微鏡による相分離構造観察;顕微鏡観察によって、高NaCl濃度の混合カラギーナン溶液については相分離構造が確認できたが、低いNaClまたはKCを添加した混合カラギーナン溶液では見られなかった。また、レーザー光ピンセット装置をセットアップを完了し、溶液中に分散させた直径0.3μmのラテックス粒子を補足して動かすことができた。しかし、ゲル化後にはラテックス粒子のブラウン運動は止まり、それを光ピンセットで動かすことができなかった。 マイクロMRIによる観察;テスト画像に対して、y軸方向(エンコーディング軸を想定)にランダムなずれを加えたシミュレーションでは、ずれを補正してコントラストが向上されることを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
磁場勾配NMR測定;平成26年度に引き続きミクロ相分離構造形成過程をプローブ高分子の拡散挙動から検討するために、より大きな分子量のPEOを用いてιリッチ相とκリッチ相における拡散係数の差を大きくして測定を行う。 光ピンセットによるミクロ粘度の空間分布測定;試料に分散させたラテックス粒子をレーザー光ピンセットによって振動させてラテックスの動きの幅と遅れを解析し、数μmオーダーでのミクロ環境の粘度測定を行う手法を確立する。平成26年度の検討においては、0.3μmのラテックス粒子では光ピンセットの力が小さくて動かせなかったので、1から3μmのサイズのものを用いる。このようなミクロ粘度の空間分布は試料のミクロ相分離構造やその中での高分子濃度分布や架橋密度などのミクロ環境での物性に対応している。 超臨界乾燥試料のSEMによる網目構造の評価;通常のSEM測定では試料を凍結させるために氷核成長に伴い網目構造は破壊され、観測される網目構造は氷結晶の大きさに対応した大きなものになる。また、ゲルを凍結させない、環境制御型SEMによる観察では、水の存在により鮮明で高分解能の画像が得られない。そこで、試料を超臨界CO2に溶媒置換した後に乾燥させ、含水状態でのゲルの網目構造を保持したまま乾燥させる。調製した超臨界乾燥試料をSEM観察して実空間での網目構造を観察する。 マイクロMRIの高分解能化;混合ゲルをガラス2重管の内管に入れ、外管には参照用の水を入れた測定試料管を用いて、空間分解の10μmに対応する高磁場勾配下でのMRI測定を行い、平成26年度に作成した位相補正プログラムを用いて分解能の向上を試験する。さらに、高速・短時間の信号取り込みにより水の拡散による画像の滲みを少なくし、空間分解能を10μm程度まで向上させ、光ピンセットによるミクロ粘度測定結果と比較・検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の研究計画の中に含まれていたマイクロMRI測定において、試料調製に必要な試料管の作成が遅れたためにNMR装置を用いた実験の実施が遅れた。そのためにNMR装置の使用に伴い生じる装置使用料金の負担が生じなかった。この未使用分を次年後のNMR装置使用料金として使用することにした。なお、MRI測定が遅れた分、測定結果の解析のために必要となってくる解析プログラムを先に行い、MRIのサンプル画像を用いたテストを行い、これを完成させたために、実験計画全体に遅れは生じない。
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次年度使用額の使用計画 |
MRI測定用の特殊試料管の作成とNMR使用料金として使用する予定である。
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