食べ物の“おいしさ”を決める要因の一つ香りについて、香りの原因物質である香気化合物がどのように挙動するかを予測するシステムを構築・開発することを目的とした。特に、人が咀嚼している時に鼻に抜ける香りがおいいしさの判断に大きく影響することが知られている。このことから、咀嚼過程における香気化合物の挙動の把握に焦点を当てた。 香気化合物は脂溶性の化合物が多いことから、食品を構成する成分に油が多いか少ないかによって放散の挙動が変わってくる。この指標となるLogP(水と油の分配比率を表す値)に関して、5056化合物について過去の文献値を整理し、また、ソフトによりLogP値のシミュレーション算出を実施し、両者の一致性を検討した。過去文献値のうち、他の文献値および算出シミュレーション値と大きく異なる数値は削除し、今後の研究で採用できる値のデータベースを構築した。 咀嚼パターンに関しては、人パネリストのべ40人のデータを解析した。各種食品試料を咀嚼させた際の咀嚼特性(歯列の状況、咀嚼速度、咀嚼頻度、咀嚼時間、途中嚥下頻度、唾液分泌量、呼気流速)の幅を計測確認した。また、各パネリストが各種食品試料を咀嚼した際の食塊の状況を、重量、粘稠度、粒度分布を計測することで、食塊特性を把握し、食塊特性と咀嚼特性の関連性を確認した。 そして、人パネリストの各種食品試料咀嚼時の口腔および鼻腔からの香気化合物を捕集し、GC-MSおよびPTR-MSにより分析して、放散香気化合物の同定、放散量、経時的な変動を検討した。さらに、人の咀嚼を再現できる模擬咀嚼装置によるデータも合せて分析した。 上記各測定項目を統合し、香気化合物の咀嚼中の放散挙動について、食品成分、食品組織、パネリストの咀嚼特性と食塊特性、香気化合物の種類による、咀嚼中の香気放散の挙動をまとめた。
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