研究課題/領域番号 |
26282032
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
覧具 博義 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (50302914)
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研究分担者 |
村田 隆紀 京都教育大学, その他部局等, 名誉教授 (10027675)
合田 正毅 新潟大学, 自然科学系, 名誉教授 (60018835)
笠 潤平 香川大学, 教育学部, 教授 (80452663)
石本 美智 高知工科大学, 工学部, 准教授 (40299368)
箕田 弘喜 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20240757)
谷口 和成 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (90319377)
安田 淳一郎 山形大学, 基盤教育院, 准教授 (00402446)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 物理教育研究 / 物理教育 / 科学教育 / 認知科学 / 大学教育 / 高等学校教育 / 力学概念理解 / 科学的思考力 |
研究実績の概要 |
1)調査ツールの選択と統一和訳版の策定:調査には,米国で物理教育研究をもとに開発され国際的に普及しつつある調査ツール(調査問題セット)を用いることにし,ニュートン力学の教科内容理解度については「力学概念調査(FCI)1995年版」,また科学的思考力については「ローソン教室テスト(LCTSR) 2000年改訂版」,のそれぞれの和訳版を選択した。後者については,研究者の間で複数の和訳版が使用されていたため,原著者の了解を得て統一和訳版を作成した。 2)調査の実施: 全国の高校および大学の教員に研究分担者・研究協力者を通じて調査への協力を呼びかけ問題セットの配布と回答の回収を行った。2014年度春学期開始時点の履修前テストとして,FCIで5600,LCTSRで1900,また春学期履修後(ポスト)テストとしてFCIで1200の被験者データを得た。これは,日本でこれまでに行われたこれらの調査テストとして最大規模のデータ量である。 3)初年度調査データの概要分析:米国での大規模FCI 調査データとの比較からは,日・米の大学初年次生について,総数30の設問ごとの正答率に相関係数0.86の強い相関が見出された。さらに,誤答を含む選択肢の選択パターンにも日・米間で強い相似性がみとめられた。LCTSRについても同様の相似性が,米国および中国データとの比較から見出された。 これらの結果は,米国で開発されたFCIやLCTSRが,日本の学生・生徒に対しても十分に有効なプローブとして機能すること,さらに,高等学校から大学入学時点における学習者の力学概念理解や科学的思考力の発達の様相が,日米の異なる文化,教育体制,言語にもかかわらず相互に強く類似していることを示す新規で重要なデータである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大規模データの収集:本課題の初年度の2014年度は,当初は予備調査を計画していたが,全国の高校および大学の物理教員の協力を得て,総計約9000の大量の回答票を得た。「物理教育研究」に基づく調査で単年度に組織的に収集されたデータとしては,日本におけるこれまでの最大規模であり,また,海外でも例の少ない大規模なものである。 海外データとの強い相関:収集された膨大なデータの詳細な解析は2015年度に計画しているが,すでに全体概要の解析から,極めて興味深い知見が得られている。すなわち米国のMorrisほかによる米国の大学生に対する大規模なFCI調査結果,およびBaoらによる米国と中国の大学生に対するFCIおよびLCTSR大規模調査との比較によって,設問別の正答率のみならず,誤概念の存在を検出する誤答選択肢の選択比率についても日米間で強い相関が見出された。 強い相関が示唆するもの:この強い相関は,米国と日本の学生・生徒の持つ素朴概念分布や概念理解形成過程が相互に強く類似していること,さらに,我々が使用した和訳版調査問題の翻訳が原著の意図に忠実な妥当なものであることを強く示唆している。さらに,「物理教育研究(PER)」という物理教育に対するアプローチが妥当なもので国際的な普遍性を持っていること,さらにはPER に基づいて開発されたFCI等の調査手法や,授業手法の言語や文化を越えた有効性を持つことを示すものと考えられ,意義は極めて大きいと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)平成26年度データの詳細解析の実施:これまでの概要分析によれば,力学概念理解度調査(FCI)についても,また,科学的思考力調査(LCTSR)についても,問別正答率や誤答選択肢選択状況などは,米国(および後者については中国)での調査結果と驚くほど一致している。この事実は,これらの調査ツール,およびその根底にある「物理教育研究」という研究手法の文化や言語を超えた有効性や,物理学概念理解や科学的思考力発展の国際的な共通性を示す重要な知見と考えられる。その上で,米国や中国でのデータとの差の詳細な吟味は,これらの国々と日本における物理教育体制やカリキュラムの差異の影響についての有用な情報をもたらす可能性がある。また,高校での物理科目履修歴や,校種,学年,さらにはジェンダーなどに依存する差異についての詳細分析は物理教育にとって重要な指針をもたらす可能性が期待される。 2)平成28年度調査の企画と準備:平成27年度以降の大学入学者には新指導要領による「物理基礎」および「物理」の履修者が含まれる。学習指導要領改訂の影響をプローブすることも視野に入れて,平成28年度に再び大規模調査を実施する。この大規模調査の内容や実施方法については平成26年度調査結果の詳細解析結果を踏まえて計画し準備を行う。 3)国際的な研究交流の実施:海外の研究者との間の研究交流を,有力研究者の日本への招聘などを通じて積極的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度である平成26年度には当初は被験者2000名規模の調査を計画したが,全国の物理教員のこの調査への関心が高く,予定を大きく超える8000名超の被験者データが得られた。このため調査データ読み取りと分析の費用が当初予算を上回る事態を予想して,学術研究助成基金助成金の繰り上げ申請(平成26年8月18日;300,000円)を行い認められた。しかし,データ解析ソフトの一部を研究協力者が自製するなど節減に努めた結果543,883円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
予算圧縮のために平成26年度における実施を見送っていた国際研究交流(米国研究者の短期招聘など)に充当する。また,平成28年度実施予定の次回大規模調査の準備に向けて,調査票改訂版の開発などに充当する。
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