研究課題/領域番号 |
26282038
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
中城 満 高知大学, 人文社会・教育科学系, 講師 (80610956)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 個別と普遍 / 二項対立的自然観 / 科学的な見方や考え方 / 考察 / 結論付け / 問題解決学習 / 具体と抽象 |
研究実績の概要 |
平成27年度においては,平成26年度に実施した質問紙調査における分析結果を学会等において発表した。具体的には、日本科学教育学会第39回年会において発表した。ここでは、理科の問題解決学習における「結果を考察し結論に至る」過程を指導者はどのように解釈しているか、教師は実際の理科授業に臨んでどのような点に困難さを感じているか、以上の2点についての報告をおこなった。この調査により、小学校理科における指導の問題点の一つである「結果を考察し結論に至る」過程における混乱の現状を把握することができた。なお、国際学会(1st international Conference 2015 Kathmandu, Nepal)は発表の予定であったが、2015年4月のネパール地震の発生により、中止となった。同学会は1年間延期されたが、本年度はこの学会において本研究に関する発表を行う予定である。 また、これらの質問紙調査と並行して、授業実践の蓄積も行われた。授業収録にあたっては、高知県内で実施される理科研究授業の中で、授業観察及び記録収集が許可されたものについてのみ実施した。また、協力者が自ら研究授業を実施したものも収録され、その分析が行われた。授業者は楠瀬弘哲指導教諭と国澤亜矢教諭である。楠瀬弘哲教諭による小学校第5学年「流れる水のはたらき」の研究授業においては、「個別と普遍の区別」に関する具体的な混乱の実例となる授業記録を収集することができた。また、国澤亜矢教諭による小学校第5学年「もののとけ方」の研究授業においては、「個別と普遍を区別する」ための具体的な手法の1事例の効果を検証することができた。 以上のように、質問紙調査による「個別と普遍の区別」の混乱状況の明確化と、その混乱を解消するための具体的な手法の蓄積をさらに進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
質問紙調査においては、個別」と「普遍」の混乱状況は主に「結果の考察」の場面において起きていること、考察から結論付けに至る場面において指導者によってその構成が異なっていることなどが明らかとなった。さらに、「結果の考察」の場面は、科学的な思考がよりよく育つ場面として多くの教員が選択しているが、指導が困難であると考えている教員も多いことが示されている。 これらの混乱状況の裏づけとして、並行して実施している研究授業記録の収集においても、「個別と普遍の区別」に関する混乱が原因と思われる事例を収集することができた。例えば、2016年2月に収集した中学校第2学年「天気の変化」における「霧や雲の発生」の学習記録がそれに当たる。本授業では簡易的に作成したフラスコ内の曇りを「雲」として扱い学習を進めたが、生徒はこれらを普遍的な雲としてとらえることに大きな抵抗感を示した。これは、簡易的な実験を個別の現象として、雲の発生の仕組みを普遍的な規則性として明確に区別できなかったことが主な原因と考えられる。 以上のように、通常教材研究や授業構成における工夫の不足等が原因として考えられていた問題点に、本研究で明らかにしようとしている「個別と普遍の区別」の明確化が関係しているのではないかという事例が見いだされた。これは、研究の最終年度において計画している「個別と普遍の区別」を意図した、理科のカリキュラム作成を進めるための重要な視点となりえる。このような知見をもとにして、さらに授業記録を収集していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,「個別」と「普遍」の混乱解消のためのカリキュラムを作成する。具体的には、それまでに開発した手法を用いた研究授業を実施し,その手法の効果を検証するとともに,手法の改善を図る。また,これらの見直しにより改善された手法をもとに,できるだけ他の単元,他の学年における実践へと手法の事例を広げ,その汎用性を高めていく。研究のまとめとして,これらの具体的手法を盛り込んだカリキュラムを作成する。 カリキュラム作成の意図は、継続的な指導が行われなければならないからである。つまり、理科教師、そして児童自身に「個別」と「普遍」を明確に区別する意識が生まれるためには、これらの目的を意図した授業実践が継続されなければならないのである。このような思考過程を継続することによって、「科学的な見方や考え方」,「科学的自然観」が児童に発揮され,培われるのである。 最終的には、これらの知見に基づいた書籍を出版する予定である。「個別と普遍の区別」の本質は、科学的な見方や考え方が西洋的な自然観に代表されるように二項対立的な構造を持つのに対して、日本的な考え方がこのような構造を持ち合わせていないことにある。しかも、この日本的な考え方は日本語に埋め込まれており、これを母語とする日本の教師も子どもも通常意識されないことがその原因の一端を占めている。日本の理科授業が日本語で行われることが前提である以上、これらの問題の所在を理科教師自身が自覚しなければならない。本書籍の出版にあたっては、本研究で明らかになった日本の理科授業における具体的な問題点やその解決策を明示しつつ、日本人がもつ固有の自然観、無意識のうちにそのような見方や考え方にもとづいて授業が進んでいるといった本質的な問題にも言及してゆきたいと考えている。
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