研究課題
1.黒曜石の産状や溶岩内部構造の記載及び岩石採取のため,国内3地点(北海道白滝の幌加湧別カルデラ内に噴出した黒曜石溶岩,北海道屈斜路カルデラ内に噴出したリシリ黒曜石溶岩,伊豆諸島神津島の砂糠山黒曜石溶岩)での地質調査を行った。神津島砂糠山黒曜石溶岩の内部構造に関する調査結果については日本火山学会において研究発表を行った。黒曜石溶岩の形成・噴出とカルデラの形成や構造とが密接に関連している。第5回国際カルデラ学会(ニュージーランド,タウポにて開催)にて,カルデラの内部構造に関する研究発表を行った。また洞爺カルデラのデイサイト溶岩,クッタラカルデラの内部構造に関する研究論文を公表した。さらに白滝黒曜石溶岩の内部構造に関する論文を日本火山学会誌に投稿した。2.北海道埋蔵文化財センター,千歳市埋蔵文化財センター,帯広市埋蔵文化財センターに保管されている上部旧石器時代中期から後期の黒曜石遺物合計約2000点の蛍光X線分析,およびサハリン国立総合大学博物館所蔵上部旧石器時代後期の黒曜石遺物の石器分析と蛍光X線分析のための準備作業をそれぞれ現地で実施した。上部旧石器時代中期の黒曜石調達行動を明らかにするため,嶋木遺跡の発掘調査を通じて黒曜石遺物を回収し,合計1500点の蛍光X線分析を実施した。3.北海道の黒曜石産地同定分析用サンプルの補充のための野外調査を実施した。米国ミズーリ大学のジェフ・ファーガソン博士らと共に北海道東部の15箇所の黒曜石産地において,産地同定分析用の試料採取を行い,蛍光X線分析を実施した。放射化分析はミズーリ大学実験原子炉において現在継続中である。
2: おおむね順調に進展している
1.平成26年度の研究計画の実施は概ね順調に進展したと言える。黒曜石溶岩の内部構造に関する地質調査では北海道白滝と伊豆諸島神津島で実施して詳細な記載を終えている。現在データ解析を進行中であるが,露頭における細部の構造について再調査や岩石採取を行う必要がある。水分計による水分量の測定とSEMによる微細組織観察も当初同時並行で進める予定だったが,黒曜石論文の構成を綿密に考慮した結果,試料を精選して次年度以降に集中して行うこととした。2.海外の共同研究者と連絡調整して次年度に調査研究する事項についても,計画通り順調に推移したと言える。ロシア・カムチャッカ半島の黒曜石調査研究においては,当初ロシアの共同研究者であるクズミン博士と計画を連絡調整していたが,費用の面で折り合いが付かず,同じ共同研究者であるロシア科学アカデミー極東地質研究所長のグレバニコフ氏の提案を採用して共同で実施する計画とした。また,黒曜石遺物の産地同定に関わる蛍光X線分析も想定以上に多数行われ,アメリカ・ミズーリ大学のファーガソン博士が来日して北海道で正確な岩石採取を行い,当博士のもとでINAA分析を進行中である。3.黒曜石のデータベース作成に関わるシステム作りについては,研究支援者の雇用を確保できず,本格的に着手されていない状況である。研究成果報告集会の実施については,当初東京で行う予定であったが,地質・岩石研究班が3回にわたって北海道で実施したこともあり,全体の成果報告集会の開催時期については次年度以降にずらすこととした。
1.黒曜石は産地ごとに固有の化学組成を持っていて,これまで石器など黒曜石遺物の産地同定に利用されていた。黒曜石は岩石組織の上でも多様性があり,本研究計画では,北海道白滝,屈斜路カルデラ・リシリ,神津島,信州の黒曜石を抽出して比較し,黒曜石の生成過程を明らかにしたい。黒曜石の噴出過程のモデルについて,現在定量的な扱いでモデルを構築しつつある白滝及び神津島をケーススタディとして解明し,国際ジャーナルに論文を投稿していく。2.平成27年度は,ロシア側共同研究者と協力として計画を進めてきたロシア・カムチャッカ半島の黒曜石露頭の調査を実現させる。また,噴出年代の新しいアメリカの黒曜石溶岩の現地調査もアメリカ・オレゴン州立大学の共同研究者と進めていく予定である。今後はイタリア・リパリ島の黒曜石溶岩も調査し,これによって黒曜石溶岩に関する世界にわたる産状の比較検討が達成できる。3.考古学に関する方向としては,ロシア側共同研究者との連絡を密にして黒曜石遺物の組成分析も進めていく。引き続き,アメリカのファーガソン博士の協力で北海道の黒曜石産地の正確かつ精密な組成分析によって黒曜石のスタンダード組成を確立していく。黒曜石カタログデータベースのシステム作りは,研究支援者の確保が予算的にも厳しい状況であるが,黒曜石研究の進展にあわせて,連携および協力研究者の協力も得て何とか進めていきたい。
ロシアにおける黒曜石露頭研究の調査旅費は多額な費用がかかるため,ロシア側と十分に計画を練って実施する必要がある。助成基金分をロシアにおける調査研究旅費の基金として使用したいために次年度に使用を残した。また黒曜石データベース作成のための研究支援員の雇用を計画していたが,雇用の確保ができなかったために次年度使用額が生じた。
次年度使用額は,ロシア・カムチャッカ半島の黒曜石露頭研究調査旅費に使用する。また引き続き有能な研究支援員の雇用を計画する。研究成果報告の集会についても旅費の確保のために計画する。
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