研究課題/領域番号 |
26282068
|
研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
和田 恵治 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (50167748)
|
研究分担者 |
出穂 雅実 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (20552061)
後藤 芳彦 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20221252)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 黒曜石 / 溶岩内部構造 / 含水量 / 産地同定 / 蛍光X線 / カムチャッカ半島 / 遺跡 |
研究実績の概要 |
(1)黒曜石の産状や溶岩内部構造の記載及び岩石採取のため,国内2地点(北海道白滝の黒曜石溶岩,伊豆諸島神津島の砂糠山黒曜石溶岩)での地質調査を行い,柱状図の作成,球顆の岩石組織記載,含水量分析を行い,内部構造と含水量の関係を調べて岩石学的検討を行った。この研究成果の一部は第10回International Symposium on Knappable Materials(スペイン・バルセロナ大学)において「日本列島の代表的黒曜石原産地における黒曜石微細組織の特徴」と題して口頭発表した。さらに白滝黒曜石溶岩の内部構造に関する論文が日本火山学会誌に掲載された。 (2)ロシア科学アカデミー極東地質研究所の協力の下,複雑な内部構造を示すロシア・カムチャツカ半島の黒曜石溶岩の地質調査を行い,黒曜石試料を採取し,黒曜石のガラス組成の分析を行った。 (3)火山噴火によって黒曜石が形成される条件を明らかにするため,熱力学計算ソフトRhyolite-MELTsを用いたマグマ溜りの温度・圧力・含水量条件の推定,TTT図を用いたガラス形成条件の推定を行った。 (4)千歳市埋蔵文化財センター,釧路市埋蔵文化財センター,およびサハリン国立総合大学博物館に保管されている上部旧石器時代の黒曜石遺物合計約1000点の蛍光X線分析を実施した。また,上部旧石器時代中期および後期の黒曜石調達行動を詳細に検討するため,上士幌町嶋木遺跡と北見市吉井沢遺跡の発掘調査で黒曜石遺物の蛍光X線分析を実施した。成果の一部はアメリカ考古学学会及び国際第四紀学会で発表された。 (5)北海道および東北の黒曜石産地同定分析用サンプル採取のための野外調査を実施した。採取した250点の試料の蛍光X線分析をまず実施し,その後米国ミズーリ大学実験原子炉を利用して放射化分析(長時間照射)を実施中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)平成27年度の研究計画の実施は概ね順調に進んだと思われる。黒曜石溶岩の内部構造に関する地質調査では北海道白滝で球顆の分布を記載に追加し,伊豆諸島神津島では火砕脈や流理構造の走行傾斜の記載を追加した。カールフィッシャー水分計による水分量の測定は白滝と神津島,カムチャッカ半島の試料で進めた。SEMによる微細組織観察も黒曜石の加熱実験試料で進めることができた。黒曜石の形成過程についてその定量的モデル化を順調に進めている。 (2)海外の共同研究者と連絡調整して平成27年度に調査する事項については,ロシア・カムチャッカ半島の黒曜石調査研究においてはロシア科学アカデミー極東地質研究所長のグレバニコフ氏の協力を得て実施することができたが,一部計画を断念した項目もあった。噴出年代の新しいアメリカの黒曜石溶岩の現地調査はアメリカ・オレゴン州立大学の共同研究者との日程調整が合致せず,断念した。今後の黒曜石の海外調査研究ではリパリ島の黒曜石溶岩を対象にしていく計画である。黒曜石遺物の産地同定に関わる蛍光X線分析も多数行われ,アメリカ・ミズーリ大学のファーガソン博士においてはINAA分析を進めている。 (3)黒曜石のデータベース作成に関わるシステム作りについては,研究支援者の雇用を予算面で確保できず,平成27年度も本格的に着手されていない状況である。研究成果報告集会の実施については地質・岩石研究班が合同調査や学会で研究打ち合わせや成果を発表したことや考古班も東京において成果報告を個別に実施したため,全体の成果報告集会の開催時期については平成28年度後半または平成29年度に開催することとした。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)北海道白滝,屈斜路カルデラ・リシリ,神津島,ロシアの黒曜石を抽出して比較し,溶岩の内部構造の解明とともに黒曜石の生成過程を明らかにしたい。黒曜石の噴出過程のモデルについて,現在定量的な扱いでモデルを構築しつつある白滝及び神津島をケーススタディとして解明し,国際ジャーナルに論文を投稿していく。 (2)平成28年度は,ロシア側共同研究者と協力して計画を進めているロシア・ウラジオストック北方の黒曜石露頭の調査を実現させる。ここでは苦鉄質な黒曜石が産出され,枕状溶岩の産状と噴出環境も興味深い。またイタリア・リパリ島での国際学会を利用して黒曜石のスタンダードとして国際的に評価されるリパリ島の黒曜石溶岩も調査し,これによって黒曜石溶岩に関する世界にわたる産状の比較検討が達成できる。 (3)ロシア・カムチャツカ半島の黒曜石溶岩の産状はこれまで報告されてきた典型的なものではなく,複数枚の黒曜石層が存在する複雑な内部構造を示している。このような複雑な内部構造を示す溶岩の噴出過程を定量的にモデル化する予定である。また,日本の白滝および神津島の噴出モデルと比較検討を行う予定である。含水量分析を行った黒曜石溶岩の試料について岩石組織の解析を行い,マグマの物性値・含水量・組織解析データから,黒曜石溶岩の内部構造形成に関わるマグマ上昇・脱ガス過程を定量的に考察する。 (4)考古学に関する方向は,これまで得られた測定値に基づき原産地同定を実施し,その行動論的解釈に着手する。また,米国ミズーリ大学と共同で北海道および東北の黒曜石のスタンダード組成を確立していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ロシアにおける黒曜石露頭研究の調査旅費は多額な費用がかかるため,ロシア側と十分に計画を練って実施する必要がある。助成基金分をロシアにおける調査研究旅費の基金として使用したいために次年度に使用を残した。またアメリカの黒曜石溶岩の現地調査ができなかったことと黒曜石データベース作成のための研究支援員の雇用確保ができなかったために次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度使用額には,ロシア・ウラジオストク北方の黒曜石露頭研究調査旅費に費用を充てる。また研究成果報告の集会について旅費の確保のために計画する。研究支援員の雇用に努力してその費用を充てる。
|