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2016 年度 実績報告書

出土青銅製文化財の保存処理に使用されたアクリル樹脂の劣化について

研究課題

研究課題/領域番号 26282072
研究機関公益財団法人元興寺文化財研究所

研究代表者

植田 直見  公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10193806)

研究分担者 川本 耕三  公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10241267)
塚本 敏夫  公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (30241269)
山口 繁生  公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (00752370)
難波 洋三  独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (70189223)
研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2018-03-31
キーワードアクリル樹脂 / 劣化 / 出土青銅製文化財 / 赤外分光分析 / 熱分解-ガスクロマト-質量分析 / ゲルろ過クロマトグラフィ / 熱分析 / 溶剤
研究実績の概要

新たに36点の銅剣についてアセトン抽出したアクリル樹脂をこれまでと同様の分析を行いその結果を比較した結果、これまでとほぼ同じ傾向を示した。続いて未使用のアクリル樹脂を(A)室温で約1.5年(溶剤が残存)、(B)60℃で約1.5年(溶剤無)、(C)60℃高湿度下で約1.5年(水を含む)の条件に置いたものの塗膜としての機能性を検討した。今回の実験で新たに溶剤は長年にわたり樹脂内部に留まることが判明し、膜形成や機能に重要な役割を持つことが明らかとなった。
そこでこれらの挙動を熱分析と赤外分光分析により判断した。熱分析では600℃までの昇温で、窒素下では300℃と400℃付近に分解による吸熱反応、空気下では400℃に燃焼によるピークが確認できた。熱重量測定では(A)は150℃付近から溶剤が蒸発することによる重量減少が、(C)では100℃付近から水が蒸発することによる重量減少が見られた。軟化点については、溶剤を含む(A)は溶剤が含まれていない(B)(C)に比べ15℃前後高温側にシフトすることがわかった。
試料(A)(B)(C)と200℃まで加熱後の試料の赤外分光分析では(A)(B)は加熱前後で分子の骨格構造に大きな変化は無く、一方(C)は水酸基に由来するピークと劣化による一部のピークの変化が見られたが、加熱により水酸基に由来するピーク強度が低下したことを除けば(A)(B)と近似した結果となった。加えて、カルボニル基に由来するピークに着目することで、樹脂に含まれる溶剤や水分が分子構造の変化や樹脂膜の機能に影響を及ぼすと考えた。
以上、樹脂の化学変化や機能を検討する場合、樹脂そのものの変化だけでなく溶剤や水分の関与も検討する必要があることがわかった。また、室温で1.5年放置しても樹脂中の溶剤は残存しており、これらが遺物の防錆や強化に影響する可能性が考えられる結果となった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

昨年、当初予定していなかったアクリル樹脂以外の樹脂の存在が確認されたことより、出土資料の含浸樹脂の分析はこれらの樹脂を取り除いた上で分析を行う必要があることがわかった。また、促進実験を行う中で、本来蒸発して劣化とは関係のないと考えられていた溶剤が塗膜の機能に関係することが判明し、溶剤を含めた劣化条件を再度検討する必要が生じた。

今後の研究の推進方策

今年度は最終年度となるため、これまでの実験や分析結果を再度見直し、途中で新たに判明した結果も含めて実験、分析をする必要があると判断した。
特に溶剤の存在下での塗膜の機能性をどのように判断するかについては実験方法、分析方法も含め再度検討が必要である。
劣化促進実験との比較により、明らかに樹脂は化学変化を生じていることがわかったが、劣化として捉えるかどうかを最終年に判断出来るように進めていく。

次年度使用額が生じた理由

塗膜の分析方法の一つである赤外分光分析装置が故障し部品がないため新規に購入が必要となりその一部を支出することになった。そのため、当初予定していた物品費を大きく上回る支出となった。
さらに未使用の樹脂の劣化促進実験を昨年に引き続き進める予定であったが、塗膜中に溶剤が完全に蒸発せず残存することが判明し、劣化促進実験の進め方を再度検討する必要性が生じた。そのため、今年度に予定していた外注による熱分解-ガスクロマト-質量分析の一部を取りやめ、物品費に充填することになったが、その費用の一部は次年度に繰り越す結果となった。

次年度使用額の使用計画

平成29年度は劣化促進実験の再検討を行うことで研究所内で実施できない熱分解-ガスクロマト-質量分析および、クロマトグラフィによる分取・分析の実施点数の増加が予測され、繰り越した経費は外注分析を見直すことにより増額するであろうこれらの費用に充填したい。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2017

すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)

  • [学会発表] 出土金属製品の保存処理に使用されたアクリル樹脂の劣化について2017

    • 著者名/発表者名
      植田直見・山田卓司・山口繁生・田中由理・塚本敏夫・川本耕三
    • 学会等名
      第6回東アジア文化遺産シンポジウム
    • 発表場所
      上海復旦大学
    • 年月日
      2017-08-24 – 2017-08-26
    • 国際学会
  • [学会発表] 出土青銅製文化財の保存処理に使用されたアクリル樹脂の劣化について(3)2017

    • 著者名/発表者名
      植田直見・山田卓司・山口繁生・田中由里・塚本敏夫・川本耕三
    • 学会等名
      日本文化財科学会

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公開日: 2018-01-16  

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