研究課題/領域番号 |
26282109
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
重 尚一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60344264)
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研究分担者 |
広瀬 正史 名城大学, 理工学部, 准教授 (40392807)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リモートセンシング / 気象学 / 地球観測 / 防災 / 自然災害 |
研究実績の概要 |
本研究は、16年にわたって蓄積された熱帯降雨観測衛星(TRMM)の観測データを利用し、世界の様々な地域の地形性豪雨について、降水特性と大気環境場との関係を明らかにすることによって、衛星搭載マイクロ波放射計から高い精度で降雨量を推定することを目的にしている。 衛星搭載マイクロ波放射計アルゴリズムの降雨推定量が過小傾向にあるアジアモンスーン沿岸山岳域の地形性降雨を対象に、熱帯域において重要な季節内振動の影響について解析した。アジア極大降雨域の1つであるインド亜大陸西岸の降雨は、季節内振動に伴って北進する大規模雲擾乱の通過後に増幅されていることが分かった。これは、低気圧性循環を持つ季節内振動の大規模雲擾乱の後方(南側)で強化されている西風がもたらす地形性降雨によるもので、西進する大規模雲擾乱の前方(西側)で強まる日周期によって降雨量が増幅される海洋大陸と対照的な位相関係である事が分かった。 我々が開発したGSMaPマイクロ波放射計アルゴリズムは地形性豪雨を、沿岸域では捉えることができているが、内陸域では過小推定している事が分かった。これは、アルゴリズムが水蒸気フラックス収束量を参照しているためで、降水鉛直構造の決定要因であると新たに同定した下層の大気安定度(Shige and Kummerow 2016)を導入することによって、改良できる見込みを得た。 また、降雨域が10㎞未満である小規模降水システムに対象を絞り、降雨頂と降雨強度極大値で単純化したプロファイルの地域差異を調査した。降雨頂ごとの降雨強度極大値頻度分布を月別・1度格子ごとに作成し、クラスター分類を行った結果、乾燥域や半乾燥域で上空にピークが集中するという降水システムの内部構造に関する地域的特徴が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していなかった季節内振動に着目することによって、北半球夏季に北進する季節内振動のインド亜大陸西岸における地形性降雨への影響を新たに見出すことが出来た。昨年度、日周期降雨におけるインド亜大陸西岸と海洋大陸の対照性を示す事ができたが、さらに北半球冬季に西進する季節内振動の海洋大陸日周期降雨に与える影響との対照性を示す事ができた科学的意義は大きい。 さらに、降水鉛直構造の決定要因と同定した下層の大気安定度を利用することで、内陸山岳域の地形性豪雨改良の見込みを得ることもできた。
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今後の研究の推進方策 |
季節内振動の地形性降雨への影響に関する論文を出版する。また、内陸山岳域の地形性豪雨を過小推定している事が防災利用に向けた最大の課題であるので、下層の大気安定度を利用して改良することを最優先に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
アジアモンスーン期における日周期ならびに季節内振動に伴う地形性降雨の解析で論文を投稿する予定にしていた。しかしながら、さらに季節内振動の日周期への影響に関する解析を加えて論文投稿することが、目的をより精緻に達成することがきると考え、追加解析を実施したため、論文投稿が遅れ、出版に至っていないためである。 さらに、これらの成果は国際的に高く評価され、2017年8月シンガポールで開催されるAOGSにおける招待講演を依頼されたためである。 また、内陸山岳域の地形性豪雨過小推定の課題を、下層の大気安定度を利用して改良する必要があるためである。
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次年度使用額の使用計画 |
投稿中の論文の改訂ならびに出版に必要な経費に使用する。また、2017年8月シンガポールで開催されるAOGS参加に必要な経費に使用する。さらに、内陸山岳域の地形性豪雨過小推定の改良についての論文投稿・出版費に使用する。本研究で得られたデータを保存するための機器購入に使用する。
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