本研究は、16年にわたって蓄積された熱帯降雨観測衛星(TRMM)の観測データを利用し、世界の様々な地域の地形性豪雨について、降水特性と大気環境場との関係を明らかにすることによって、衛星搭載マイクロ波放射計から高い精度で降雨量を推定することを目的にしている。 衛星搭載マイクロ波放射計アルゴリズムの降雨推定量が過少傾向にあるアジア夏季モンスーンの最大降雨域であるインド西岸(西ガーツ山脈)とミャンマー沿岸(アラカン山脈)の降雨に対する地形、日周期変動、及び季節内振動の影響についての解析結果を論文で発表した(Shige et al. 2017)。これらの地域、特にインド西岸では、山岳ではなく風上の海上に最大降雨域が位置すると従来の研究で指摘されていたが、インド西岸では風上斜面、アラカン山脈では沿岸で降水量が最大となることを明らかにした。また、従来の研究が依拠していた可視赤外放射計降雨推定アルゴリズムの問題点を明らかにした。さらに、従来の研究では熱帯陸上降雨の日周期変動の重要性が強調されていたが、両地域、特にインド西岸では、日周期変動の振幅は小さく、しかも、その振幅は山脈に向かう一般風が強いほど小さくなることを初めて見出した。一方、降雨量はこの一般風が強いほど大きくなり、熱的強制による日周期変動よりも力学的強制が支配的であることを指摘した。さらに、インド西岸での季節内振動に伴う降水量変動は、海上での変動に対して位相の遅れが生ずることなども明らかにした。この成果は、 South China Sea Science 2017とAsia Oceania Geosciences Society 2017で、招待講演として発表した。
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