研究課題
気象庁独自形式の解析値を解読し,欧州中期予報センター(ECMWF)のOpenIFSに初期値として与えて予報実験を行うためのスクリプトを作成した。パソコン及びスーパーコンピュータ上で変換された初期値から時間積分が行えることを確認した。ECMWFのOpenIFSを京都大学のスーパーコンピュータシステムに移植し,高解像度実験が可能となった。2013年台風第3号Yagiの事例に対し,当時の現業解像度である水平解像度約15 km鉛直91層でシミュレータを行ったが,現業の経路・強度は再現されなかった。波浪モデルを結合したところ,現業解像度を用いて現業の経路・強度をほぼ再現することができた。また,WRFを用いて2016年1月に赤道付近で発生したハリケーンPaliの発達過程や再発達過程について力学的な解析を行った。全球観測システムを構成する個々の観測が,その後の予報の改善にどの程度寄与したかをアンサンブル予報から定量的に診断するEFSO (Ensemble-based Forecast Sensitivity to Observations)というツールを実装した。これを用いて,特定の期間(3か月)におけるラジオゾンデデータの寄与についての初期調査を行い,EFSOでの診断により実際の観測インパクトが精度良く見積もれることを確認した。気象庁を含む12の気象局で運用されている全球モデルによる台風進路予報の検証を行った。進路予報誤差は減少傾向であることや,北西太平洋域では過去およそ20年間で予報期間にして2.5日分の誤差が減少していること,コンセンサス手法による進路予報は南インド洋域を除いてどの海域でも有効であることが分った。今後は,実際の進路とは大きく異なる大外し事例を減少させることが課題のひとつである。
2: おおむね順調に進展している
OpenIFSを用いた高解像度実験が可能となり,気象庁独自形式を解読し他機関のモデルの初期値として利用できるようになった。これで,日米欧の主要3機関の現業モデルと初期値を相互に交換するシステムが完成した。領域大気モデルを用いて,熱帯低気圧の発達過程における非静力学効果の解析も進展した。観測システムに対する検討においては,多くの計算機資源を必要とする観測システム実験を行わずに,アンサンブル予報を用いて個々の観測の寄与を定量的に算出する手法の実装と検証を進めることができた。現業台風予報の検証においても,予報の改善に対して示唆に富む興味深い結果が得られている。
モデルと初期値を相互に交換する「たすき掛け」実験のシステムがより使いやすくなるようにスクリプト群の整理を進める。夏冬1か月程度の日々の初期値から複数の現業数値予報モデルや気候モデルを用いた「たすき掛け」実験を実施し,モデルや初期値の特徴や予測可能性変動の特性を明らかにするとともに,非静力学全球モデルや領域大気モデルを用いて,非静力学効果,雲物理,鉛直解像度依存性について明らかにする。また,西太平洋以外の海域を含めより多くの事例について,熱帯低気圧の予報実験を行う。これらの研究から,台風進路予報の誤差低減につながる,モデルや初期値・アンサンブル摂動の改善,観測システムの改良についての知見をまとめ,本研究終了後の展開についての構想を練る。
物品が予算よりも安価に購入できたため。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 7件) 備考 (2件)
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