研究課題/領域番号 |
26282126
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
北口 暢哉 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 教授 (70508077)
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研究分担者 |
湯澤 由紀夫 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (00191479)
中井 滋 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 教授 (20345896)
松永 慎史 藤田保健衛生大学, 医学部, 講師 (30726641)
武藤 多津郎 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (60190857)
伊藤 健吾 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, その他部局等, その他 (70184653)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知症 / アルツハイマー病 / アミロイドベータ / Aβ / 血中Aβ除去 / 血液浄化 / 医療機器 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病の主原因の一つは脳に蓄積するアミロイドベータ蛋白(Aβ)である。我々は、Aβを血中から除去することにより、脳内Aβを減少させてアルツハイマー病を治療・予防する医療機器システムを創製して臨床応用に供するべく研究を進めている。 1.濾過吸着による簡便・高効率のAβ除去システムの開発:1-1) Aβ除去率が高い透析膜ポアサイズの検討: 我々が開発してきた1ポンプ濾過吸着システムにおいて、小孔径と大孔径のポリスルホン製ダイアライザを用いてヒト血中Aβ除去率を検討した。Aβ除去率は大孔径膜の方が有意に高く、循環開始15分時点では、大孔径膜はほぼ100%、小孔径膜は25%程度となった。1-2) 濾過が起こらない条件として、中空糸を断片化しヒト血漿と混和したところ、Aβの除去率は、むしろ小孔径の方が大孔径よりも高かった。つまり、血中に存在するAβは会合などである程度の大きさとなっており、濾過吸着システムでは、大孔径のポアから膜厚方向にこれらのAβが入り込むことでより効率的に吸着されたと考えられた。 2.血液浄化施行患者の脳病理:死亡後の血液透析患者脳および年齢対応非透析者脳を病理解析してきた結果、透析患者、非透析者の大脳皮質に沈着するAβは透析患者で有意に少ない事が明らかになった。ラットでの血中Aβ除去において、脳脊髄液中のAβ濃度低下も確認中である。これらのことから、血中Aβ除去によって血中へ湧き出してくるAβの少なくとも一部は、脳からである可能性が示唆された。 3.軽度認知障害異常の腎不全患者の前向き研究(透析導入前後);非透析腎不全患者をあらたに1例リクルートでき、血中Aβの追跡を継続している。また、透析導入前にアルツハイマー病と診断された患者については、透析導入前に脳内Aβの蓄積を脳Aβイメージングで確認できたが、透析導入後ほどなくして逝去されたのでフォローは終了。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.簡便、高効率のAβ除去システムの基本デザインについて、濾過吸着システムの基本要素である、膜素材、ポアサイズ、血液流量、濾過流量などが、絞り込めてきたので、臨床応用時のシステム像ができあがりつつある。実際に臨床に供しうる形で、しかも、血液浄化療法で長期間使用されてきた既存の医療機器をパーツとして使用することで、デバイスの安全性ハードルを下げることもできている。 2.血中Aβ除去(ヒトの場合は血液透析療法)によって脳内Aβが減少することを、二つの方法で検討しているが、いずれも我々の戦略を補強するデータが得られてきた。1)死後脳の病理解析で、血液透析患者17例の脳のAβ沈着は、対照(16例)の脳に比して有意に少ない事を示した。2)ラットの血中Aβ除去によって、脳脊髄液中のAβ濃度が減少するデータを得つつある。すなわち、血中Aβ除去によって血液に湧き出してくるAβは、少なくとも一部は脳由来である可能性を示唆できた。 3.非透析腎不全患者の透析導入前の時点でのリクルート症例数を増すことができ、今までのエントリ患者とともに、血中Aβ濃度、認知機能などのフォローを行えている。ただし、脳Aβイメージングのクライテリアは、透析導入前に軽度認知障害(MCI)以上の認知機能低下がある患者、となっており、同意が得られ、且つ、この基準を満たす患者のエントリは容易ではないのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
1.簡便・高効率の濾過・吸着によるAβ除去システムの創製;Aβモノマ除去に適した中空糸膜の素材とポアサイズはほぼ確定したので、我々が見出した医療用吸着材と、中空糸膜デバイスによる濾過・吸着のいずれが、Aβ除去効率が高いかを比較検討する。合成Aβ溶液は、存在形態、分子量、複合体の形成などがヒト血液中Aβとは異なる可能性が高いため、ヒト血漿を用いた検討に移行する。大量のヒト血漿が必要なため、藤田保健衛生大学病院での単純血漿交換療法の廃棄血漿、および、日赤廃棄血漿などの入手対策を打つ。 2.(Proof of Concept)血液透析導入前後のヒト脳内Aβの変化検討;最大の課題は、Aβイメージング撮影の前提条件となっている、透析導入前に軽度認知障害(MCI)以上の認知機能低下をきたしている腎不全患者のエントリである。藤田保健衛生大学腎内科などとのさらなる共同研究を促進していく。 3.(Proof of Concept)透析患者脳の病理解析;Aβ蓄積程度のみならず、脳血管アミロイドアンギオパシー、グリア細胞を含めた炎症性変化の検索を進める。さらには、非透析腎不全患者脳の検討を行う予定だが、入手が困難なので、他大学の脳バンクにも打診する。 4.(Proof of Concept)ラットの血中Aβ除去での髄液、脳のAβの変化:検討を継続し、血中Aβの変化と、髄液Aβの変化が経時的にどう対応するかを明らかにしていく。 5.我々のシステムをヒト臨床に持っていくために、1回の施行中のAβ除去量、施行回数、施行間隔などを検討する。 健常ラットのAβの変化を追うが、可能ならば、脳にAβが蓄積するラットの検討も試みる。アルツハイマー病モデルラットの入手を交渉し同意を得たが、当該大学から1000万円程度のfeeを要求されたため頓挫。
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次年度使用額が生じた理由 |
透析患者脳のAβ蓄積量が対照脳より有意に低下するという結果がまとまり、Journal of Alzheimer’s Diseaseというプレスティッジの高い雑誌にアクセプトされ、また、2016年7月トロントで開催される国際アルツハイマー病会議AAIC2016で発表することとした。このAAIC2016の発表は、脳病理専門家である連携研究者の酒井一由が行う予定なので、その費用のために2015年度の経費資料をセーブした。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように、2016年7月トロントで開催される国際アルツハイマー病会議AAIC2016に、連携研究者の酒井一由が参加する費用に充当する(代表研究者の北口も計画通りに参加)。
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