研究課題/領域番号 |
26282127
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
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研究分担者 |
片野坂 友紀 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (60432639)
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 講師 (80341080)
氏原 嘉洋 川崎医科大学, 医学部, 助教 (80610021)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 心臓メカニクス / 酸素環境 / カルシウム / 力学的環境 |
研究実績の概要 |
生体組織の機能維持にはエネルギー基質と酸素の供給が必須であり、心臓は血液循環を駆動するポンプとして働く。心臓の血液供給能力を調節して効率的に機能するためには「酸素環境」の感知と生体応答が必要となる。本研究では出生時の酸素分圧変化に伴う心筋細胞の分裂能消失や心筋の伸展性を調節するコネクチン(タイチン)アイソフォーム変化、全身の酸素需要が増加する甲状腺ホルモンの心臓マクロ機能とカルシウム動態調節などについて検討している。胎児は20mmHg前後の酸素環境下にあり出生後は肺呼吸開始によって90mmHgまで動脈血酸素分圧は上昇する。マウス胎児心筋細胞を大気酸素に暴露せずに培養する方法を確立し、培養系で高濃度酸素暴露が心筋細胞の分裂を停止させ、コネクチンも弾性の強いアイソフォームに変換されていることを確認した。また、高濃度酸素は細胞周期・代謝に関する遺伝子を数多く変化させたが、心筋細胞質で張力発生に関連するタンパクのアイソフォームについて遺伝子発現量や局在が変化しており、生体レベルでも同様の変化があることを確認した。甲状腺ホルモン投与マウスにおいては、単離心筋を用いたCa指示薬の実験によって心筋細胞Na/Ca交換体の活性が低下し、筋小胞体によってハンドリングされるCa比率が増加していることが示された。これは心筋細胞が収縮・弛緩のためによりエネルギー効率の良いシステムに移行していると解釈した。また、伸展刺激を感受するチャネルで心筋細胞に発現するTRPV2が力学的環境を感知していること、ミトコンドリアtRNAのチオメチル化修飾が欠失マウスにおいて酸素需要を増加させる大動脈縮窄を行うと対照に比較して心機能低下が起こることなどを示した。これらの結果から、心臓自身の酸素環境や全身の酸素需要に応じて心筋細胞はその機械特性やCa動態を臨機応変に調節していることが具体的に明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していたマウス胎児心筋細胞の分裂能と酸素濃度の検討に関しては、心筋細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞などの細胞集団から心筋細胞を分別するためにα-アクチニンをマーカーとして細胞選択し、更に大気酸素に暴露させずにマウス心筋細胞を酸素濃度調節下に培養する方法を確立した。この方法によって、生体内で出生時に起こる様々な変化(血行力学的変化、栄養状態の変化)から、酸素濃度変化による遺伝子発現調節を抽出することができた。実際にはマイクロアレイによる遺伝子発現検討により、細胞周期、代謝に関する多くの遺伝子発現調節を抽出した。また、心筋細胞が実際に核分裂、細胞質分裂を起こしている場面をリアルタイムに観察することが可能になった。マクロ心機能評価に関しては、コンダクタンスカテーテルによるマウス左心室圧・容積計測と心室重量補正による最大弾性率を用いた心機能評価は技術的に確立したものの、1心拍毎の心臓酸素消費計測に関してはマウス心室を灌流する溶液量が少ないこともあり安定したデータを取得するに至っていない。一方、単離心筋細胞のCa測光(indo-1、fura-2)に関しては方法論的にも確立し、様々な心臓への負荷への心筋細胞の応答評価法として論文としても発表出来るようになってきた。甲状腺ホルモンの作用についても心機能が亢進する急性期、心不全に移行する慢性期で検討し、心筋細胞Ca動態においてNa/Ca活性が低下していることを定量できた。
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今後の研究の推進方策 |
心筋細胞の分裂制御に関しては、細胞周期・代謝に関する多くの遺伝子が発現変化を示していたが、我々は本来筋節で張力発生を行っているタンパクのアイソフォームが発現量、局在(核か細胞質か)とも変化しているのに注目し、siRNAなどの方法で心筋細胞の分裂への関与を検討していく。このタンパクは非常に分子量が大きく、染色法についても特別な操作が必要であり、核局在を確実に示すためにあらゆる核分画の分離方法や質量分析を行う予定である。これと平行して、生体内での微小酸素環境を正確に評価する方法としてポルフィリンによる酸素分圧計測を予定している。哺乳類胎児の臍帯静脈酸素分圧(胎盤からの血液が流れており、胎児体内では最高酸素濃度)を計測するために母体へのポルフィリン投与による胎盤を介した胎児血液の移行の確認を予定している。新生児マウスについてもヘモグロビンの移行(胎児型→成人型)によって実際の血液酸素分圧を正確に把握することで生体酸素環境と心筋分裂能について検討する。甲状腺ホルモンの心筋Ca動態変化に関しては、遺伝子操作動物(Na/Ca心筋特異的薬剤誘導性強発現マウス)を用いて甲状腺ホルモンによる心筋細胞Ca動態の変化に介入することで心不全への移行がどのように修飾されるかを単離心筋Ca測光およびマクロ心機能によって評価する。これらの実験から、外部環境による心筋細胞の分裂・分化の制御やCa動態変化といった基礎的知見により心筋細胞の生体内調節を明らかにして、将来的には再生医療などに資する情報を提供することで社会福祉に貢献していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウス摘出心臓ランゲンドルフ灌流標本を用いた心臓酸素消費量計測実験において、動静脈酸素分圧較差を充分な正確さを得られなかったため、心臓保持容器の密封性を高めるなど計測系の改善を優先し動物実験を一時的に停止していたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度において、マウスおよび実験回路、試薬などの購入に充てる予定。
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