研究課題/領域番号 |
26282127
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
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研究分担者 |
片野坂 友紀 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (60432639)
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 講師 (80341080)
氏原 嘉洋 川崎医科大学, 医学部, 助教 (80610021)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 心筋分裂 / 細胞周期 / ユビキチン / プロテアソーム / 酸素 / 周産期 |
研究実績の概要 |
心筋細胞は生後すぐに分裂能を失い、その後の成長は肥大によって行われるため、心筋梗塞など心筋細胞が失われても機能回復のための組織再生が出来ない。このような背景から心筋細胞の細胞周期に関する研究が精力的に進められている。我々は、出生時の肺呼吸によって新生児の血液酸素分圧が急激に上昇することが心筋細胞の分裂を停止させ、肥大に向かわせるという仮説を検証している。この出生時における遺伝子発現の変化を検討するためには胎児と新生児を比較すれば良いが、ここでは酸素分圧の変化以外にも血行動態や栄養状態の変化も同時に起こっており、酸素分圧の変化だけを抽出するためには培養細胞による実験系の確立が必要となる。我々は細胞単離時より大気酸素に暴露することなく胎内環境を維持したまま心筋細胞を培養する実験系を確立した。その結果、わずか3時間の大気暴露によって心筋細胞の分裂は1/3にまで減少してしまうことが明らかになった。また、この低酸素培養系によって大気酸素に暴露された時の遺伝子発現変化をマイクロアレイによって検索し、胎児と新生児において同様に比較した遺伝子発現変化と重複して変動する遺伝子を同定した。この遺伝子は癌細胞における細胞分裂への関与が報告されているが心筋細胞では全く報告の無い新規の分子であり、胎児期には心筋細胞核に発現していて出生後には急速に発現減少していた。またこの分子をsiRNAにより遺伝子発現抑制すると細胞分裂は低下し、バキュロウイルスにて強発現させると分裂は増加した。この分子の配列には多くの細胞種において細胞周期制御に重要な役割を果たすユビキチンリガーゼanaphase promoting complex: APC の結合配列が2箇所存在しており、この結合配列に変異を入れ更にAPCによりユビキチン化されプロテアソームによって分解される時期を観察するためにGFPを結合した遺伝子を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出生時の酸素分圧上昇が心筋細胞分裂の停止のシグナルとして働いているという仮説を、厳密な低酸素培養系を確立することで証明することが出来た。この実験系で得られた培養心筋細胞の分裂能は、これまでのどの報告よりも格段に高く、短時間でも酸素に暴露されることで低下することが明らかになった。この研究分野での分裂能評価は、分裂マーカーと呼ばれる分子を発現している細胞の比率で行われることが多いが、本研究ではタイムラプスによるリアルタイム観察により細胞質分裂にまで至った細胞率によって評価を行っている点も新規性がある。また、この現象を制御している遺伝子についても同定し、siRNAによる発現抑制、バキュロウイルスによる強発現により心筋細胞の分裂が、それぞれ抑制、亢進されることを明らかにした。更に、ユビキチン化によるプロテアソームとの関連を検討しているが、この目的のためにユビキチンリガーゼAPCの結合配列に変異を入れGFPで可視化できる遺伝子を既に作成した。このようにマクロの現象として、高濃度酸素に暴露されることによって心筋細胞が細胞質分裂まで至る比率が急激に現象することを厳密に確認し、その分子メカニズムを明らかにする方法論も進んでいるため、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって同定された酸素環境変化に応答して心筋細胞の分裂制御に関与する分子のAPC結合配列に変異を導入した遺伝子を発現させ心筋細胞の分裂能が低下するかどうかを確認する。本分子のAPC結合配列は2カ所あるため、APC活性の制御に関する多数の分子のうち異なる分子との結合により複数の時相で細胞周期調節に関与している可能性についても検討を行う。また、細胞周期のどの時相において本分子がAPCによってユビキチン化され、プロテアソームにより分解されるのかを観察する為にGFPを結合した遺伝子を導入して検討を行う。更に、平成28年度中に完成することは現実的でないが、本分子の心筋特異的薬剤誘導性ノックアウト、強発現マウスを作成するための作業に取りかかる予定である。
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