研究課題/領域番号 |
26282130
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中川 誠司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 上級主任研究員 (70357614)
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研究分担者 |
添田 喜治 国立研究開発法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (10415698)
西村 忠己 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (60364072)
細井 裕司 奈良県立医科大学, 医学部, 理事長・学長 (80094613)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体情報・計測 / 骨伝導 / 超音波 / 聴覚 / 難聴者福祉 |
研究実績の概要 |
骨伝導で呈示された超音波であれば,最重度難聴者にも知覚されるが,そのメカニズムの詳細は明らかにされていない.本提案課題では,聴覚末梢器の活動を反映する各種の生理反応の計測,および骨導超音波の頭部内伝搬特性や末梢聴覚器に生成される振動モードの推定に取り組み,得られた知見から骨導超音波知覚の末梢知覚モデルを提案する.骨導超音波知覚のメカニズムの全貌を明らかにすることで,重度難聴者のための新型補聴器(骨導超音波補聴器)の開発に有用な知見の獲得を図ることを目的とする.2015年度は以下のような研究に取り組んだ. 1.音響放射計測による外有毛細胞機能の推定 蝸牛運動によって発生した”音”が中耳伝音系を逆行的に伝わり,外耳道に放射される現象を“耳音響放射”と言い,特に音を増幅する作用を持つ外有毛細胞機能を反映するとされる.骨導超音波聴取時の耳音響放射計測を行い,骨導超音波知覚におよぼす外有毛細胞機能の機能を評価した.複数の計測装置(マイクロホン,アンプ)を用いて,慎重に繰り返し実験を行ったが,骨導超音波への応答を示唆する耳音響放射成分は計測されなかった.このことは,骨導超音波知覚においては外有毛細胞の寄与が小さい可能性を改めて示すものと考えられる. 2.ヒト頭部計測およびコンピュータ・シミュレーションによる頭部内伝搬過程の推定 頭部内での骨導超音波伝搬過程を,ヒトの頭部を対象とした計測およびコンピュータ・シミュレーションで明らかにした.加速度センサを用いた頭部振動計測の結果からは,生体組織の非線形性による有意な可聴周波数成分の発生は生じていないことや,骨導超音波知覚に及ぼす波動成分の伝搬速度が推定された.また,コンピュータ・シミュレーションの結果と併せて,骨伝導知覚において複数の伝搬ルート(マルチパス)が生じている可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各サブテーマを当初計画通りに遂行できた.耳音響放射計測の結果からは,昨年度の結果から得られた骨導超音波知覚の特異な末梢メカニズムについての仮説を裏付ける結果を得た.また,複雑な頭部内伝搬に伴う諸現象に関して,メカニズム解明につながるいくつかの有用な知見を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は各種電気生理計測(蝸電図計測,脳波計測,脳磁界計測)を行い,気導音との異同から骨導超音波知覚における末梢~中枢の神経処理様式の全貌解明を図る.さらに,これまでの各種検討によって得られた知見を考慮して拡張することで,骨導超音波知覚の末梢処理過程をシミュレート可能な計算機モデル(電気回路モデル)を構築する.また.構築した計算機モデルの出力結果と心理物理計測や種々の電気生理計測を比較検討することで,モデルの妥当性を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
脳磁界計測用液体ヘリウムの購入,研究補助者の雇用費などを支出予定であったが,所属機関の内部交付金を充当することができた.
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度未使用額を来年度以降の研究補助員雇用費に充当し,知覚モデルの構築/検証のための各種生理計測,心理計測を当初予定より大規模に実施することで,より高度な成果の獲得につなげる.
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