研究課題/領域番号 |
26282131
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山田 勇磨 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (60451431)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薬物送達システム / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
本申請研究では、ミトコンドリア (Mt)を標的とする遺伝子治療法を確立するため、疾患細胞Mtを標的とした遺伝子送達・発現を目的とする。H26年度は、「1. 微小管輸送を介したMt標的型キャリアの構築」、「2. Mt遺伝子発現pDNAの遺伝子発現能の検証」、「3.自主臨床研究の整備」を中心に研究を遂行し、当初の計画以上に進展している成果を報告した。H27年度は、下記の項目を中心に研究を遂行した。
1. Mt発現pDNAベクターの改良: pHSP-mtLuc(CGG)封入MITO-Porterを構築し、HeLa細胞および疾患細胞を用いて検討したがMt遺伝子発現は確認されなかった。そのため、Mt発現pDNAベクターの改良に取り組み、pHSP-mtLuc (CGG)より40倍高いMt遺伝子発現能を有するpX-mtLuc (CGG)を開発する事に成功した。また、HeLa細胞を用いた検討においてMt遺伝子発現に最適な組成を有する新型のMITO-Porter-Xを開発し、培養細胞系でのMt遺伝子発現に成功した。 2. 疾患細胞を用いた細胞内動態評価: tRNAPheに点変異を有するMt患者由来の皮膚細胞の樹立・継代に成功した。本疾患細胞に従来型MITO-Porterを添加し、細胞取り込みおよび細胞内動態を観察した。その結果、これまでにHeLa細胞で観察された結果と同様にMITO-Porterが病態モデル細胞に取り込まれ、Mtに移行する事が確認された。 3. Mt応答性核酸ナノ粒子の構築: Mt環境応答性核酸ナノ粒子を構築するために、ヒスチジンを基本骨格とするポリマーを合成した。当初はpHSP-mtLuc(CGG)の核酸ナノ粒子を構築する予定であったが、pX-mtLuc(CGG)の開発に着手したためオリゴ核酸を用いたナノ粒子形成し、種々の検討を経て核酸放出能を最適化する事に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定であった『疾患細胞を用いたキャリアの細胞内動態の最適化』の前に、pHSP-mtLuc(CGG)が培養細胞Mtにおいても遺伝子発現活性を有する事を検証したが、HeLa細胞および疾患細胞においてMt遺伝子発現は確認されなかった。そのため、キャリアを改良する前にMt発現pDNAベクターの改良に取り組み、pHSP-mtLuc (CGG)より高いMt遺伝子発現能を有するpX-mtLuc (CGG)を開発する事に成功した。また、HeLa細胞を用いた検討においてMt遺伝子発現に最適な組成を有する新型のMITO-Porter-Xを開発する事に成功した。当初予定していなかったこれらの研究成果は特許出願中である(現在、事業化を検討中である)。pX-mtLuc (CGG)のMt遺伝子発現能を最大限に引き出すMt送達用キャリアMITO-Porter-Xは従来型MITO-Porterの構成成分が基本骨格となっているため、標的とする疾患細胞を用いて従来型MITO-Porterの細胞内動態を評価した。その結果、MITO-Porterシステムは疾患細胞Mtへの移行が十分に可能である事が確認された。 これらの結果に基づき、疾患細胞へのMt送達にはMITO-Porter-Xを、遺伝子発現にはpX-mtLuc (CGG)を基盤としたシステムを構築するよう計画を再考した。計画の一部は変更しているが、ここまで示した内容は『疾患細胞Mtを標的とした遺伝子送達・発現』を目的に掲げる本研究を達成する有用な成果である。一方で、Mt環境応答性核酸ナノ粒子の構築に関してはオリゴ核酸を用いたナノ粒子形成にとどまっており、H28年度に遺伝子ナノ粒子に関する検討を開始する。以上より、現在までの達成度は『おおむね順調に進展している』と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、『疾患細胞Mtにおける遺伝子治療戦略の検証』を中心に下記に記載した計画で研究を進める予定である。
① 疾患細胞を用いたMtを標的とした外来遺伝子発現の検証: pX-mtLuc (CGG)を搭載したMITO-Porterを構築し、疾患細胞Mtへの遺伝子導入・遺伝子発現を検証する。本申請研究では、自主臨床研究 『Mt病に対する薬物治療法確立に向けた検討』で樹立したtRNAPheに点変異を有するMt患者由来の皮膚細胞を用いる。本疾患細胞は、複合体III活性が低下しておりMt膜電位・ATP産生の低下が予想される。遺伝子発現検証に関しては、転写過程は逆転写PCRによってMt内のmRNA量を定量、翻訳過程は発現したNanoLuciferaseタンパク質の発光を測定し評価する。本検討を通じて疾患細胞における最適なMt遺伝子発現が可能なシステムを構築すべく、プラスミドDNAおよびナノキャリアの最適化を図る。
② 疾患細胞を用いた遺伝子治療戦略の検証: 疾患細胞Mtへの遺伝子導入・発現を最適化したMITO-Porterシステムに治療用DNAを搭載し、Mt遺伝子治療戦略の検証を試みる。治療用DNAの候補としては、疾患細胞の有する変異tRNAPheに対応する正常遺伝子をコードするMt発現型プラスミドDNAを使用し、これまで樹立したMt患者由来の皮膚細胞(tRNAPheに点変異を有し、複合体III活性の低下、難聴などの症状)を用いる。また、正常遺伝子をコードする治療用“RNA”も評価核酸として想定している。治療効果は複合体III活性、Mt膜電位、ATP産生量などを測定し評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度中に全額使用済みであるが、年度末に購入した物品の支払いが 本報告書の作成時点で反映されていないため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のとおり、平成27年度中に全て使用済みである。
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