研究課題/領域番号 |
26282134
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 賢 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (00322850)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 生体適合性 / 血液適合性 / 水和構造 / 中間水 / 細胞接着 |
研究実績の概要 |
癌の簡便な早期診断手法の開発のためには、初期の癌組織から血液中に漏出される希少な癌細胞を選択的に補足できる血液適合性に優れた材料が必要である。本研究では、申請者が世界で初めて発見した血液適合性高分子の水和構造・運動性制御による癌細胞の選択的接着現象に着目し、高分子の主鎖や側鎖に導入する置換基の構造、導入位置、導入量、配列、が制御された新規高分子の精密合成による水和構造・運動性の制御を行うことを目的としている。本年度は、エチレングリコール構造を側鎖に導入した新規ポリマーを開環メタセシス重合法を用いて合成し、得られた高分子が発現する水和構造と血液適合性の相関性について検討した。エチレングリコール側鎖長を変更した高分子では、エチレングリコールユニット数の増加に伴う中間水量の増加が確認され、高分子の一次構造の制御によって中間水量の制御に成功した。血液適合性の発現に最も寄与している高分子物性を調べるために、血小板粘着数と高分子物性との相関性について検討した。ガラス転移温度や液滴法によって得られた接触角の値と血小板粘着数の関係を調べたが、高い相関は得られなかった。ポリマーの主鎖の分子運動性や材料表面の親水性だけではでは血液適合性の発現について説明できないことがわかった。次に、血小板粘着数と自由水、不凍水、中間水の関係について検討を行った。不凍水量や自由水量に対する血小板粘着数の関係を調べたところ、同じ不凍水量、自由水量を有するポリマーでも血小板粘着数に差が見られた。次に、中間水量と血小板粘着数の相関性について検討した。血小板粘着数と中間水量の相関性は他のポリマー特性よりも高く、中間水量の増加に伴った血小板粘着数の減少が見られた。中間水が存在しない材料表面では、最表面の不凍水によって吸着タンパク質の構造変化が多く生じ、血小板が多く粘着したと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血液適合性を有する細胞選択性接着材料の開発を進め、生体親和材料に関する多くの新知見を得るなど順調に研究が進んだ。本研究では、バイオ界面水に着目した生体親和性高分子のスクリーニングにつながる中間水コンセプトを見いだしている。中間水は、高分子鎖と特定の相互作用を示す分子運動性の高い水であり、生体親和性を示す合成高分子とタンパク質、核酸、糖類などの天然高分子に共通して観測されることを示した。また、中間水量を制御することにより、リガンドフリーの条件下で癌細胞を選択的に捕捉できることを明らかにした。医療用材料設計・合成に関する知的財産権の出願を行い、さらに企業との共同研究を推進している。この研究の成果は、個別化医療デバイスの開発へ繋がるものと期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
高分子の主鎖や側鎖に導入する置換基の構造、導入位置、導入量、配列、官能基間のスペーサー長などが制御された新規高分子の精密合成を系統的に行う。新規に合成した高分子の乾燥時および水和(純水、緩衝溶液)時におけるバルクおよび表面の物理化学的な性質を明らかにする。また、新規合成高分子の水和構造(不凍水、中間水、自由水)を熱分析および分光分析により定量化する。さらに、各高分子表面に吸着した主要なタンパク質であるアルブミン、フィブリノーゲン、フィブロネクチンの吸着量と吸着したタンパク質の変性度を調べる。水和環境下における高分子鎖の電子状態に基づく分子モデリングと分子動力学シミュレーションによる理論計算を行う。合成高分子の対照として、DNA、RNA、タンパク質、多糖などの生体高分子が有する水分子の構造・運動性の解析を行い、合成高分子鎖と生体高分子鎖の水和状態と細胞接着性との関係を分子レベルで明らかにし、医療材料と生体との反応を予測できる評価方法を提案する。細胞接着選択性が発現する機構の共通原理を明らかにし、数理モデルを提示して分子設計にフィードバックすることを目指すために、生理環境下において、バイオ界面を高感度に解析できる分光分析、表面・界面分析用の複合装置を開発する。材料表面に吸着した生体分子や接着した細胞についても深さ分析を行うことで、界面における分子相互作用を詳細に解明することが可能となる。種々の分子分光法とコンピューター解析技術により相補的な情報を得ることで、新規合成材料の界面で発現する分子機能を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究室が山形大学から九州大学へ異動したため、長期培養の実験を次年度に行うことに決定した。
|
次年度使用額の使用計画 |
4月に新しい細胞培養室のセットアップが完了したので、予定通り細胞培養の実験を行う。
|