研究課題/領域番号 |
26282135
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石原 一彦 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90193341)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 細胞親和型ポリマーハイドロゲル / 細胞分化誘導 / 細胞周期 / 弾性率 / リン脂質ポリマー |
研究実績の概要 |
本研究では、高品質で均一な「細胞材料」を獲得する新しい製造技術基盤の確立を最終目的とする。前年度の研究成果を踏まえ、細胞を固定化するハイドロゲルの設計に立ち返り、解離特性や溶質拡散性に着目しながら、ポリマーの分子量を制御た。これにより効果的に細胞機能を維持・制御、あるいは調節できるハイドロゲルを創製した。細胞周期に注目して、細胞の休止期(G0,G1相)に存在する細胞組成を95%以上にすることが可能となった。一般的に細胞培養皿にて培養する場合には、休止期には約50%が存在するが、倍加時間の短い細胞では、さらにこの組成が低下する。遺伝子導入や生理活性分子により細胞を分化させようとする場合には、この休止期に存在する細胞が主に影響を受ける。したがって、この組成を高めることは高効率で細胞を分化させる際には重要なパラメーターとなることを見出した。細胞塊の状況を観察しながら、休止期(G0,G1相)に存在するES細胞に対して、生理活性分子を添加して細胞の分化誘導を実施した。モデル細胞としては、マウス間葉系幹細胞(C3H10T1/2)を利用し、Bone Morphogenetic Protein(BMP)-2による骨組織への分化を考察した。分化誘導マーカーとしては、Type II collagenの生成をELISAにより定量し、休止期に存在する細胞組成と分化誘導効率との関連性を確認することができた。一方、人工の細胞外マトリックス中に固定化されて、その活動を制限されているために、細胞に対して分化誘導シグナルが入っていても、誘導が認められない場合があった。そこで、実際のType II collagenの生成量のみならず、発現に関連するmRNAの分析についてもReal-time PCR法を応用して同時に実施し、結果として細胞の分化誘導効率を従来の4-5倍とできることを見出した。。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞親和型ポリマーハイドロゲルは、2つのポリマー水溶液を混合するだけポリマー間で生じる複合体形成により生成する。この際に、ポリマー溶液中の濃度を変化させるだけで、ハイドロゲルの力学的特性(弾性率)を容易に調節できる。ここで、細胞培養の条件にマッチしたポリマー構造、分子量を、ハイドロゲルとした際の粘弾性、溶質透過性をパラメーターに規定することに成功した。その結果、内包された細胞の増殖周期を完全に調節できる条件を見出すことができた。このことは、ハイドロゲルの力学的特性によってのみ細胞機能を制御できる新しい方法論を提示し、これにより細胞周期で休止期にある細胞素性を95%以上にできることを世界で始めて見出した。さらにこの状態で分化誘導因子を添加し、ハイドロゲルの弾性率を少し低下させると、従来の分化誘導に比較して、数倍になる効率を達成した。これら一連の操作は、このハイドロゲルは光透過性が高いために、固定化した細胞の情報を分光学的手法によりin situで取り出すことができる。これにより、細胞分化に関わる分子因子の導入時期を一定とし、「細胞材料」の質の高さを確保できるようにする。
|
今後の研究の推進方策 |
高品質の「細胞材料」の製造技術は、今後の細胞を一要素とした細胞工学、細胞機能を解析する細胞分子生物学などの学術分野、製剤・化粧品開発など細胞を利用して安全性と有効性を評価する分野、あるいは細胞により治療を行う組織再生医療、細胞診断・細胞治療などの分野において不可欠であることは疑いの無い事実である。そこで、以下の方法にてこれを実現する。細胞周期を休止期に留めおく細胞環境を見いだし、この時点で細胞分化・機能誘導を行い、均質化した細胞へと導く。分化・機能誘導された細胞を、温和な条件で細胞内包ハイドロゲルより回収し、その後、通常の2次元培養、浮遊培養(細胞非接着培養容器を利用)あるいはCollagenマトリックスなどを利用した3次元培養系へと移行させる。これは、一般的に用いられる培養技術との融和であり、細胞塊として応用できるか否かの重要な検討項目となる。細胞の回収は、細胞内包ハイドロゲルが解離することがすでに判明しているD-sorbitolの媒体への添加により行う。浸透圧を大きく変化させず、かつ30分間以内の回収を目標として、添加するD-sorbitolの濃度範囲を決定する。得られた細胞塊の機能解析は培養系を替えて行い、通常培養で得られる細胞塊と比較しながら、高品質の「細胞材料」として提供できる細胞種、細胞播種数、細胞培養期間など一般化できる限界を求める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度には、細胞親和型ポリマーハイドロゲル内に固定化した細胞の分化誘導を中心に、シグナル分子の種類、濃度あるいは添加するタイミングに関して系統的な解析を行う予定であった。しかしながら、この条件設定に関して、シグナル分子の種類を変更することなく、また比較的容易に条件設定が可能であった。そこで、分化誘導効率に関する検討を先行して進めることとした。結果として、高額のシグナル分子などを購入することがなかったために、平成27年度の研究費使用額が少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
現在は、マウスES細胞を中心に検討を進めているが、今後、この系をより拡大させていく。細胞親和型ハイドロゲルに関しても、ブロック型ポリマーの合成は可能となってきており、ハイドロゲルの解離による細胞の回収特性やシグナル分子の拡散性などの特性の違いも考慮しつつ、細胞種に対応させて随時変更を行う。そのために、細胞親和型ハイドロゲルの調製に関して、多くのポリマー量が必要となり、これを合成するMPCモノマーの購入が不可欠である。さらに、数種類のシグナル分子の購入も必要となるために、この購入に利用する予定である。
|